硬派な男
このままじゃまずい。あえて挙げるとすれば、まずいことが三つある。
まず第一に、目立っていること。クラスの中での話とはいえ、数十人から注目をあびるというのは、俺の人生計画が狂ってしまう危険性がある。それは非常に不愉快であるし、大変な焦りを催す事態だ。
第二に、班のメンバーが俺の意思と反して決まってしまうかもしれないこと。これが危惧される。正直、むさ苦しい班は嫌だな。転生前、俺がまだ思春期だった頃は、女と一緒なんてダサイと思っていたが、今は違う。これは私見だが、やはり集団には花が必要だ。そう、美少女という花がな。巨乳であればなお良い。
そして最後に、サラについてだ。同じ班を組むということは、一緒に過ごす時間が増えるということだろう。そうなれば、サラが獣人のマルデヒット族であるということが露見しかねない。大切な従者であるサラを苦しめるわけにはいかない。
以上の点から、班は慎重に決めなければならない。
要するに、まじでやばいのだ。
すでに俺のことなどそっちのけで、クラスメイト達の言い争いが始まっている。
周囲は大混乱だ。
「ご主人様、どうしましょう?」
サラが俺の服を摘まんで上目遣いを向けてくる。不安そうだ。
「そだな……」
ふと隣をみると、セレンが変わらぬ様子でぽつんと座っている。きわめて所在なさげだ。
「なぁセレン」
「なに」
「誰と組むんだ?」
ロボットのような動きで、セレンがこっちを向いた。
「決まってない」
「知り合いとかいないのか」
「いない」
こいつもぼっちか。
「あなた以外」
少しだけ小さくなった声でそう続ける。聞き逃さないぞ。
「そっか」
まさかさっき話したばかりの俺を知り合い認定してくれるとは。なんとなく嬉しい。
というか、これってたぶんセレンなりのアピールだろう。無表情なせいで無感情に見えるが、こいつ内心で孤独を感じていそうだな。
よし。ならばやることはひとつ。
「ならさ。俺と組むか?」
「え」
「俺と組もう。俺も知り合いが少なくてな」
「でも、あなたは引く手あまた」
「関係ないね。俺は俺が組みたい奴と組む」
「……そう」
セレンが顔をそらす。
「決まりだな」
クラスメイト達の言い争いはさらに激化しつつあった。付き合ってられないぜ。
周囲が騒いでいるどさくさに紛れて、俺はセレンの手を取って立ち上がる。
「あ」
「いくぞ。飯でも食おう。いい店を知ってるんだ」
セレンの手を引いて、俺はそそくさと講義室を後にした。
多少強引だったかもしれないが、こうでもしないとこの場は切り抜けられんだろうしな。
サラが恨みがましい視線を向けてくるのは、たぶん気のせいだ。




