気がつけばすぐ傍に
「グランブレイドに説かれる〈八鍵の教え〉ですか」
アンが細い顎を押さえる。それから、八女神の名を淡々と淡々と羅列した。
運命の女神ルーチェ。
愛の女神アイリス。
知恵の女神アデライト。
勇気の女神オルタンシア。
勝利の女神ウィッキー。
忠義の女神サラ。
星の女神セレン。
時空の女神アカネ。
「みんなは、エレノアの創世に巻き込まれなかったのか?」
「〈妙なる祈り〉の影響を色濃く受けた〈八つの鍵〉は、その生命の格が世界の理を超えていたんだろーね。だから【座】にいたあたし達が干渉できたんだ。そんで、助けてあげたって感じかな」
「三女神は、この世界から消滅して【座】にいったのか」
「おねーちゃん達だけじゃなくて、他にもいたでしょ?」
「あいつか……マシなんとか五世」
いけ好かない笑みと声を思い出す。たしかあいつも理を超えて【座】に至っていた。
「お前らが、みんなを助けてくれたってのか」
「そーだよ。あー、心から感謝してほしいなー」
皮肉なもんだ。さんざっぱらムカついて、ぶっ倒そうとしてた奴らに、大切なみんなを救われるなんてな。
「まーでも、助けたって言っても大したことはできなかったけどね。例えば、創世に巻き込まれて消えちゃわないよーに、特定の場所に封印っ。みたいなー?」
「ねぇそれって、パパってこと?」
鍵の欠片が俺の中にある。つまり、みんなは俺の中に封印されている。アナベルはそう解釈したようだ。
「ロートスくんの中にも、いくつかの欠片はあるよん。でも、全部じゃないんだ。そーだなー……たぶんだけど、半分ってとこかな」
「半分?」
「四人ってことー」
要するに、俺の中に鍵のうちの四人が封じられてるってわけかよ。
まじかよ。そんなのにわかには信じられねぇ。
事実を、飲み込めねぇ。
「確証はないけど、ロートスくんの能力から推し量るに――」
エンディオーネは指を一本ずつ立てていきながら、
「運命。愛。知恵。時空。このあたりかなー?」
ルーチェ。
アイリス。
アデライト先生。
アカネ。
この四人ってことか。
「その人達が、パパの中に封印されているの?」
「たぶんだよ、た・ぶ・ん」
いや。
「そう考えると色々と合点がいく」
〈鍵の八女神〉の二つ名は、そのままみんなが司る概念を表しているのだろう。
俺が持つスキル『タイムルーザー』と『無限の魔力』は、そのまま時空と知恵に当てはめることができる。
そういえば、アカネは自身の肉体年齢を自由自在に操ることができていた。あれも時空を司る力の片鱗だったと考えれば辻褄が合う。
そして、魔法といえばアデライト先生だろう。あの人は根源粒子に対する理解を得てから、【座】の存在を感得するまでに至った。エレノアのスキル『無限の魔力』を模倣することなど造作もないはずだ。
だがアイリスとルーチェはどうだ。俺にはとんと心当たりがない。
「ああ、なるほど。主、あーしはわかりましたよ」
しばらく思案していたアンが、得心した表情で口を開いた。




