白日の下に明らかに
エンディオーネに曰く。
更地になった神の山。原初の神性を手にした聖女エレノアは、新しい世界の創造を始めた。
第一に、前世界は眠りについた。
第二に、眠った世界を礎として、新たな世界を構築した。
第三に、色のない世界が成立し、準備が整った。
最後に、生まれたての神は根源粒子と化し、大宇宙に遍満する新世界の母となった。
「ここまでで大体二千年くらいかかったかな。まー、時間の概念なんてあってないようなものだけどさ」
「にせんねん……途方もないな」
「聖女は、気の遠くなるような年月をかけてこの世界を創り出したのですね」
俺とアンは驚きを重ねる。
「ねぇエンディオーネ。あたし達は、あの人の創世が不完全だったと思ってるんだけど、それは合ってるの?」
「合ってるよん」
アナベルの問いは、肯定された。
「だから前世界を土台にしなきゃならなかったんだ。世界をゼロから創ったわけじゃなく、元の世界を改竄したって感じだね。なんたって原初の神性は歯抜けだったし」
「そのせいでいくつかの概念が抜け落ちたってことね? 具体的には、時の概念かしら」
「それだけじゃないよ。運命もそーだし、魔法もそー。エストみたいに運命を補強する力はないし、根源粒子の絶対量が少なかったせいで世界の総魔力量は減っちゃった。だから、この世界の魔法は前ほど発達してないでしょー?」
そうだろうか。そもそも前世界の魔法についてあんまり詳しくなかったから、そのあたりはよくわからない。こっちではしっかり勉強したんだけどな。簡単だったから俺でも楽に習得できたのかな。
「ま、色々抜けがあったってわけだねー」
アンが思案しながら呟く。
「ではもしや……それが世界の穴だと言うのですか」
「そーそー。魔王ちゃんは察しがいいね。エレノアちゃんが創ったこの世界には、穴があるってゆーのはもーわかってるよね? 時間、魔力、運命ってゆー三つの概念からうまれてるんだよ」
おい、待て。
「時間……魔力……?」
それってまさに、俺のスキルの話じゃないか。
「まさか俺の『タイムルーザー』と『無限の魔力』は、エレノアから与えられたものじゃない?」
「うん、違うねー。だって、まさにそれこそエレノアちゃんに欠けてる概念だし」
「じゃあ、俺のスキルは一体……」
謎は深まるばかり。
「ロートスくん。いるんだよ、キミの中に」
「なにがだよ。俺の中に何がいるってんだ」
「鍵の欠片」
なんだと。
「あたし達三女神を含め、前世界の命はぜーんぶエレノアちゃんに消されちゃったけど、例外もいた。ここにいるキミ達のことじゃないよ」
「じゃあ、誰のことだ」
「〈鍵の八女神〉」
慄然とした。
「聞いたんじゃないかな?〈八鍵の教え〉に説かれる〈真世界〉の女神達の名前をねー」
まさかここでその言葉を聞くとは、思ってもみなかったからだ。




