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今こそ初心に帰る時

 聖域。

 エルフの里にある封じられた場所だ。


 天を衝く世界樹の股から、その内部に入ることができる。

 俺達は世界樹の目の前で、その威容を見せつけられていた。


「改めて見上げると、とてつもなく大きいわね」


 アナベルが感嘆混じりに言う。


「この世界ができる前から生えてるんだっけか? そりゃ大きくもなるわな」


「創世以前、ですか」


 思案する仕草を見せたアンが、すこしに気になった。


「それがどうかしたか?」


「主。世界樹が創世前から存在しているというのは、妙ではありませんか? いくら聖女の創世が不完全といっても、神性を持たない世界樹がその影響を受けないはずがありません」


「でも、お前やアナベルだってそうだろ?」


「あーしは、僅かなりともマーテリアの神性を自らの力として取り込んでいました。ご令嬢については……」


 アンの視線を受け、アナベルが頷く。


「あたしの場合は、外れた時の中にいたからね。あの人の創世は、時間の概念に穴があったから」


 瘴気を持つアンや、時を超えていたアナベルが、例外すぎたというわけか。


「もし創世前から連続しているという言説が真実であれば、世界樹は何らかの超越的な存在から干渉を受けているはずです」


「だろうな。心配するなアン。全部織り込み済みさ」


 それを確かめに行くんだからな。


「ここに人間が立ち入るのは、創世以来初めてのことでやんすな」


「歴史を刻む瞬間ってわけか」


 俺はわずかに緊張しながら世界樹の内部を見据える。太い根の隙間が、あたかも城門のようになっていた。


「さぁロートス。入るでやんすよ」


 オーサに促され、俺は躊躇なく中へと進んだ。

 世界樹の内部。聖域は、完全なる闇だ。一寸先も見えない。


「パパ。照明魔法を」


「無駄でやんす。聖域は光を喰らう」


 まじか。ガチで特殊な空間なんだな。

 だが、俺はたしかに歩を進める。

 後ろから皆がついてきているのを感じながら、闇の先へ突き進んでいく。


「そろそろでやんすね」


 進入から数分後。

 ついに聖域の最奥に辿りついた。


「ここが世界樹の樹心。生命の間でやんす」


「ここに、『ユグドラシル・レコード』があるのか」


 次の瞬間。

 目の前が激しく発光した。

 突然明るくなったことで、俺の目は眩んでしまう。

 ようやく目が慣れてくると、そこには信じがたい光景が広がっていた。


「おいおい……ウソだろ……!」


 そこは明らかに、人工的な建築物の中だった。円筒状のだだっ広い空間が天高く伸びている。

 世界樹の幹の内部に、塔が隠されていた。実際そういうことだった。


 しかし、なにより驚いたのは。

 空間の中心。夥しい枝と根が複雑に絡み合う中に、一人の少女が四肢を繋がれ、囚われていた。


 忘れもしない。

 俺が異世界に来ることになった元凶。

 生命の光と呼ばれた、創世の三女神の一柱。

 レオタードを身に纏った死神ロリ。


「エンディオーネ……」


 さしもの俺も、名前を呟くのが精一杯であった。 

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