エルフの森についただけ
その後。
数日かけてエルフの森へ向かう算段だ。
掘り返され、巻き上げられた大地が堆積しており、かなり足場が悪い状態だったが、全快した俺とイキールはルンルンで踏破した。
共に危機を乗り越えた俺達の間には、奇妙な感情が芽生えていた。
それは友情かもしれないし、信頼かもしれない。
まさか恋心ってわけじゃないとは思うが。
それはさておき。
俺達は山岳地帯を抜け、草原を横断し、世界樹のそびえる森を臨んでいる。
エルフの森は目前である。
「イキール」
「なに?」
「今更だけど、どうしてついてくるんだ? 安全なところまで戻ってきたんだから、帝都に帰ってもいいんだぞ?」
「ほんと、今更ね」
イキールは茶化すように笑む。
「いま帰っても意味ないわ。成果がないもの。強いて言えばマザードラゴンの実在を確認したくらい。あの場所の崩壊を報告するにしても、何もわかりませんじゃ話にならないし」
「まぁな」
「だからついてきたの。エルフの森で何をするつもりかしんないけど、あなたからはなにか重大な事件の香りがするわ」
「嗅覚が鋭いな」
「女の勘ってやつよ」
「はは」
何がおかしいのか、と睨まれる。
俺の知ってるイキールは、もともと男だったからなぁ。
こいつはやっぱり、名前が同じなだけの完全なる別人なんだろう。
「ついてくるなとは、もう言わない。けど、来るなら覚悟を決めろよ」
「覚悟……?」
「世界の真実を知る覚悟。信じていたものを否定する覚悟。そして、最後まで俺についてくる覚悟だ」
「どういうこと、公子。あなたは一体……」
「一緒に来ればわかるさ」
言葉で説明してわかる問題でもない。
俺は返事を待たず、エルフの森へと踏み入った。
イキールからそれ以上の言及はなく、ただ俺の後をついてくる。
世界樹の根元にあるエルフの里に到着したのは、日も赤く傾く黄昏時だった。
「お。ようやく来たでやんすか」
里の入口には、オーサを始め多くのエルフ達が俺の到着を待っていたようだ。
「待ちくたびれたぞ、婿殿」
「まったく……どこで油を売っていたナリか」
フィードリッドと副長も、俺を歓迎してくれているようだ。
十数人のエルフに紛れて、アナベルとアンの姿もあった。
「主。お待ちしておりました」
漆黒のベールを垂らしたアンが俺の前に跪く。
「すまんな。結構遅れちまった」
「とんでもないことです。主を待つ時間も、あーしの喜び」
「ならいいが」
イキールの肘が俺の脇腹を突いた。
「どういうこと。なんで替え玉王女がこんなところにいるのよ」
「話せば長い」
すべてを説明している暇はない。
それに、アナベルからも同じような視線を向けられている。
どうしてイキールをつれてきたのか、という目だ。
成り行き上仕方なかった。大体の出来事はそんなもんだろう。
そんな気がする。




