デカすぎること山のごとし
「うおお……!」
離れて飛ばされてしまわないよう、俺はイキールを強く抱きしめる。
荒れ狂う暴風の中でかき回され、もはや天地がどちらかさえ分からない。
「イキール! しっかり掴まれ!」
「う、んっ……!」
折れた右腕の痛みに耐えつつ、左腕を俺の背中に回すイキール。
何秒たっただろうか。恐怖を感じる余裕もない。
全身が引き千切れそうだ。防御魔法でイキールを守っているが、それもどれくらい持つか分からない。
「公子……わたし……もう……っ」
呼吸もままならない状態で、イキールの顔から生気が失われていく。
「だめだ! 気をしっかり持て!」
こんなところで気を失えば、待っているのは死のみ。
とはいえ。
視覚も聴覚も、三半規管さえ役に立たない状況を打開する手立てはない。
俺一人なら何とでもなっただろうが、今は腕の中にイキールがいる。
見捨てるわけにはいくものかよ。
「もうすこしの辛抱だ。俺に任せとけ」
ここで死なれでもしたら、後味が悪すぎるからな。
俺は決断する。賭けに出る時だ。
「いくぞ」
スキル『タイムルーザー』を発動。
直後。周囲を渦巻いていた土砂、岩石、草木の動きが停止する。
実際には完全に停止しているわけではなく、極めて緩やかに動いているだけだ。
イキールに気を遣いつつ、俺はゆっくりと動き出す。静止する無数の岩石を飛び移り、この暴風域から抜け出す算段だ。
良い調子だった。
天地を把握し、あえて上方へと向かう。
体感時間で数秒後。俺達は暴風域を抜ける。
『タイムルーザー』解除。
次の瞬間には、俺達は静かな青い空に包まれていた。
「……え?」
イキールが呆気に取られる。
「風が、消えた?」
「抜け出したんだ」
イキールにとっては、刹那の出来事だっただろう。瞬きしたら景色が変わっていた。そう言っても過言じゃない。
俺はイキールを抱きかかえたまま、心地よい上昇気流に乗って空を浮遊する。
「なんだったの? さっきの」
「わからん。一体に何が……」
下方では今も暴風が激しく渦を巻いている。
「あんなところにいたのか」
「よく生きてたわね……私達」
「まったくだ」
俺達はひとときの安堵を得て、息を吐く。
だが、そんなことをしている暇はなかった。
暴風から飛び出てきたあまりにも巨大な影が、俺達の目の前にやってきたからだ。
あれは何だ。
端的に表すなら、デカいドラゴン。
しかし、そのデカさが尋常じゃない。
エンペラードラゴンなんか目じゃないくらいデカい。
そのドラゴンはまさに山のように大きく、なめらかな鱗は真っ白く、神々しささえ放っていた。
「なんだ、コイツは……! デカすぎんだろ……」
「ウソでしょ……! マザードラゴン……実在したというの……?」
おいなんだそりゃ。
マザードラゴンなんて、初耳なんだが。
詳しく説明してください。




