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狂い咲く予定

 おいおい。いっちょ前に罪悪感でも覚えているのか。こいつらしくもない。

 たしかに俺はイキールを庇った。そして落下の際に負った傷も治してやった。腕の骨折は瘴気の影響で治せなかったけどな。

 だがそれは俺が好きでやったことだ。感謝も謝罪も不要だぜ。


「お前さ」


 深呼吸を挟む。


「待ってろっつっただろ。危険だから来るなって」


「でも」


「でもじゃねぇ。お前の浅はかな行動がこの状況を招いたんだろ」


「な、なによ。こんなところでお説教? そんなの結果論じゃない」


「まったく。お前のせいで計画が狂っちまった」


「……計画? なにそれ」


「話せば長い。今は回復に専念させてくれ」


 難儀なもんだぜ。

 こうでも言わないと、気に病んじまうからなこいつは。


 それからしばらくは、静寂が保たれた。

 森の中は無音だった。

 モンスターどころか、虫や獣の気配もない。


「ねぇ。これからどうするつもり?」


「動けるようになったら脱出するさ」


「どうやって? 山中を無闇に動けないでしょ」


「俺のズボンのポケットに探知器がある。それがあれば森から出られるはずだ」


「探知機?」


「ああ。ちょっと取り出してくれ」


 呆れたように息を吐いたイキールは、俺のポケットをまさぐりはじめる。


「ないわよ? あ、これかしら」


「ちがう。それは俺のイチモツだ」


「ちょっ――」


 イキールはなんとも素早い動きで俺の股間を叩いた。


「いってェ! なにすんだ!」


「こっちの台詞よ! なんてもん触らせてんのよ!」


「おめーが勝手に触ったんだろ」


「……もうっ! あ」


 股間を叩かれた拍子に、ポケットから飛んでいったものがあった。イキールはそれを見つけたようだ。


「これ?」


「それだ」


 イキールが手に取ったのは、拳大ほどの金属の装置だ。懐中時計のような形をしている。


「これって、魔力探知機? こんなのが何の役に立つの?」


「中身をちょっと弄ってある。そいつは、世界樹の魔力に反応するんだ」


 というのは嘘で、実際はただの魔力探知機である。


「世界樹って……どうしてそんなもの。まさかあなた……!」


「そのまさかさ。俺はこれからエルフの森に向かう」


「はぁっ?」


 素っ頓狂な声とはまさにこのことだろう。 


「エルフの森って……何の為によ」


「そうだな……何の為だと思う?」


「聞いてるのはこっちなんだけど」


 ジト目になるイキールだが、俺が答えないでいると痺れを切らす。


「そうね。あなたは以前エルフに攫われているから。おおかた仕返しにでも行くつもりなんじゃない?」


「なるほど。一理ある」


 俺は全身の状態を確認しつつ、ゆっくりと起き上がる。


「もう動いて大丈夫なの?」


「大丈夫じゃないが、ここでじっとしてるわけにもいかないだろ。歩けるようにはなった。あとは進みながら治療するさ」


 俺は満身創痍。

 イキールは利き腕を骨折。

 その状態で、強力なモンスターが跋扈する森林を行かなければならない。

 絶体絶命だな。


 俺はイキールから魔力探知機を受け取ると、迷う事なく歩き出した。

 さぁ。

 向かうぞ。世界樹へ。

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