新たなる旅
「あんたも一応、ちょっとは考えているのね」
どうやらイキールも納得してくれたようだった。
襲来した時はどうなることかと思ったが、これで大人しく帰ってくれるだろう。
「わかったわ。そういうことなら、私も一緒に行く」
「え?」
「監視の目は多い方がいいでしょ? 私だってそれなりに戦えるって自負はあるわ。護衛が増えるって名目なら向こうも拒めないだろうし」
「そうだが」
こいつに来てもらっちゃ困るんだよなぁ。
俺は頃合いを見てエルフの森に向かうつもりだし、イキールにそれを悟られると面倒なことになりそうだ。
「陛下がお許しになるか? お前は陛下の直属なんだろ?」
「ええそうよ。でも近衛じゃないから、陛下のお近くに侍る必要はないの。国家安寧の為の行動なら、ある程度の独断を許されてる」
「そうなのか。でもな……」
俺は腕を組んだ。
どうすればこいつを置いていけるかを思案する。何かしら良い理由はないだろうか。
「でも、なに?」
立ち上がったイキールは、テーブルに手をついて前のめりになった。
「もしかしてあんた。遠い他国まで行くのに、愛しの婚約者を置いてけぼりにするなんて言わないでしょうね」
その言葉に、思考を阻まれてしまった。
今の俺はとんでもなく間抜けな顔をしているに違いない。
イキールの勝ち誇ったような表情と、恥じらう頬と瞳が、俺の目を惹きつけて離さない。
そして前のめりになったことで強調されたバストが、致命の追撃をもたらしていた。
「こいつは、一本取られたな……」
やれやれ。
イキールを出し抜いて置いていくのは簡単だ。
けどそんなことまで言われちゃ、到底放置する気にはなれないな。
「決まりね。じゃあ私、すぐに荷造りしてくるから」
「いや、そんな時間はない。旅に必要なものはすべてこちらで用意する」
「いいの?」
「ああ」
「ありがと」
しゃーなしな。
そういうわけで、今回の旅にはイキールも同行することになった。
それから一時間も経たない内に、俺達は帝都を出発。
しばらくはひたすら平原を進む。
グランブレイドの使節団を護衛しつつの道程だ。俺はアルバレス公爵家の騎士団を率いて、隊列の先頭にいた。
「ねぇパパ」
隣で馬を歩かせるアナベルが、他には聞こえないくらいの声量で話しかけてきた。
「あの人が連いてきちゃったのは仕方ないとして、作戦に変更はないのね?」
「ああ。当初の計画通り進める」
「何も起こらないといいけど。あの人、読めないのよね。色々と」
「アナベル。たしかお前、そういうのわかるんだっけ? 未来とか」
アルドリーゼがそんなことを言ってた気がする。
「まぁ、すこしだけね。これだけ世界がねじれちゃったら、当たるかどうかもわからないけど」
アナベルは感傷的な笑みを漏らす。
「まかしとけ」
「え?」
「オルたそは、必ず取り戻す」
「……うん」
娘のためだけじゃなく、俺自身のためにもな。




