ショッキング・ファクト
それはともかく。
今この場には、前世界の記憶をもつ三人が揃っている。
俺の目的は前世界を復活させることだ。
そのためにアンの記憶が役に立つかもしれない。
「で、マーテリア復活の方法は実際あるのか?」
「はい。あります」
アンは俺の腕に額を擦りつけながら言う。
「前世界が終わった瞬間。まだマーテリアの神性の一部はあーしの中にありました。この瘴気が鍵になるのです」
「どういうことだ」
「聖女の創世は不完全だったのですよ。新世界の創造には、原初の女神が持っていた神性が揃わなければなりません。しかし、あの時聖女が手にしていた神性は完全にはほど遠い」
「お前がマーテリアの瘴気を受け継いでいたからか。エレノアはお前からも神性を奪わなければならなかった」
「それだけではありません。聖女が手にしていた神性の中で、完全だったのはエンディオーネのものだけです。ファルトゥールの神性ですら、一部が欠けた状態だったのですから」
「まじで?」
「あ、そっか。サラさんの魔力」
気が付いたのはアナベルだった。
「サラさんはドルイドの血統でしょ? ドルイドの魔力はファルトゥール由来のもの。だから、そこに神性が分けられていても不思議じゃない」
「そういうことな」
思い返してみれば、サラの魔力は女神由来だったな。
いつかコッホ城塞で見た琥珀色の光。あれはまさに神の所業だったのを憶えている。
「つまり、この世界には致命的な穴がある。その穴をこじ開けようと世界侵食を起こしているのがエルフ達です。しかし、いくらあれを続けてもこの世界を覆すことはできません。精々わずかに穴を広げる程度。決定的な変革を起こすには、やはりあーしの瘴気が必要です」
なるほどな。
「この世界で神性を持つ者はアンだけ。アンが、エレノアに一撃を加える鍵となるってわけか。じゃあ今すぐ動こうぜ。この世界にでっかい穴を空けられるんだろ?」
「いえ。残念ですが、今すぐは不可能です」
「え? なんで?」
「そもそもの話ですが、世界の穴がどこにあるのかがわからないのです。このまま世界侵食を続けていけば、いずれはどこかのダンジョンでそれが見つかるかもしれませんが……」
「その世界の穴ってのは、どんなものなんだ?」
「簡単に言えば、別世界への路です。隣り合う世界へ繋がる次元の歪み。それが世界の穴です」
「え? ちょっとまって。隣り合う世界へ繋がるって……それってつまり、前の世界がまだ消えずに残ってるってこと?」
アナベルが驚愕交じりに問う。
それを聞いて俺の目も開いた。そして、アンが神妙に頷いたことで更に見開いてしまう。
「まじかよ」
てっきり俺は、エレノアによって前世界がなくなってしまったと思っていた。
だが実際は、そうじゃないのか。
「前世界は、存続してるってことか……?」
「はい。その通りです」
まじで、びっくりだ。




