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まことの王女

 コーネリアは、苦悶の表情でその声を聞いていた。


「あの子は……昔から特別な力を持っていました。魔物を自由自在に操り、あまつさえ強力にしてしまう力です。父サーデュークは、あの黒い力を利用してデメテルを滅ぼし、グランブレイドの覇道を究めるつもりだったのです」


 俺はコーネリアの負傷した腕に医療魔法をかけながら、その話に耳を傾ける。


「しかし、あの子自身にそんな気はありません。臆病で、優しい子なのです。デメテルへの来訪が決まった時も、ひどく怯えていたようでしたし」


 たしかに、うちに来た時もそんな感じだったな。

 だが。


「あの言葉を聞く限り、猫を被ってたってわけか?」


「わかりません。あの子を突き動かす何かがあったとしか」


 魔王を突き動かす何か、か。

 あそらくマーテリアの神性。ペネトレーションと『アウトブレイク』によって帝都に撒き散らされた瘴気が原因だろう。

 俺がアンを帝都に呼んだせいで、この事態を引き起こしちまったんだ。


「ありがとうございます。小公爵様」


「いいってことよ」


 傷が完治すると、コーネリアは小さな吐息を漏らした。傷が治ったっていうのに、その表情は沈んだままだ。


「……グランブレイドはもう終わりです。王女が帝都でテロ行為を起こしたとなれば、開戦は避けられないでしょう」


 戦争にでもなれば、国力に差がありすぎて戦いにすらならない。そう考えるのも当然だ。

 だが、瘴気によって強化されたモンスターは異次元の強さだ。前世界のように、人類史上最大の脅威となる可能性も十分にある。

 ただでさえこの世界にはスキルがないのだ。人の戦闘能力は前世界に比べて弱くなっている。


「俺が止める」


 再び馬に乗ろうとした俺を、コーネリアが信じられないような目で見ていた。


「止めるって……いけません小公爵様。あの子の力を浴びたモンスターは、想像以上に強くなるのです。剣も魔法も、まったく効かないのですよ? お一人では、あまりにも危険です」


「いけるっしょ」


 このまま放っておくわけにもいかない。

 俺の役目は状況のコントロールだ。アンに好き勝手やってもらっちゃ困る。

 それはデメテルにとっても〝ユグドラシル〟にとっても不都合だ。


「では、私も参ります」


 足元に落としていた盾を拾い上げ、コーネリアは空に立ち上る瘴気を見上げる。


「責任がありますから」


 俺はすこし考えた後、コーネリアの同行に賛成した。

 後々のことを考えると、一緒にいた方がいいだろう。


「よし、行こう。この世界に、魔王の存在は不要だからな」


 俺はコーネリアと一緒に馬に乗り、大公園へと急行した。

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