驚愕に値する
「え? なんですか? ここ」
困惑の声はエマのものだ。
クラス分け試験の時、『クロニクル』内部は森林だった。
今は見る影もない。
俺達が足を踏み入れた場所は、あまりにも広い――果てが見えないほどの――白い空間だった。
「この前とは随分違うじゃないか。これはどういうことなんだい? エマくん」
「あたしにもさっぱり……」
ダンジョン学に精通しているエマやヒーモにもわからないのか。
しかし、俺にはなんとなく分かるような気がする。
「ペネトレーションだ」
俺の呟きに、二人が反応する。
「ペネトレーションって、この前ここで起こった空間異常ですよね? エルフがやったっていう……」
「吾輩と『ジェネシス』に潜った時もそれが起こってたと言っていたな、ロートス」
「ああそうだ。この真っ白い場所は、ペネトレーションの完成形……なんだと思う、たぶん」
「キミにしては曖昧だな」
仕方ないだろう。
ペネトレーションの果てに何があるかは、エルフですら知らないのだ。ただ世界侵食という手段を知っているのみ。
だがその目的は、外なる神との交信だ。
つまりこの白い空間は、世界の外と交わる異界なのだ。
直感的に、そんな気がする。たぶん。
俺の勘がそう言っている感じだ。
「あ、おい! ゲートが消えているぞ!」
振り返ると、ヒーモのいう通りゲートが消滅していた。
「ええっ! どうやって帰るんですか!」
「吾輩が知るわけないだろうっ」
「騒ぐな」
俺は二人を一喝せざるをえなかった。
「何か来る」
強大な気配が、目の前に現れつつあったからだ。
まるで空間から抽出されるかのように、あるいは絞り出されるかのように、不定形の存在感が集束していく。
魔力でも瘴気でもない。
ましてや女神の神性でもない。
俺の全く知らない謎のエネルギーが、徐々に一個の存在になろうとしている。
「なんだこれは……っ!」
「ぼ、ボスモンスター……ですか?」
そこに現れたモノに、ヒーモとエマは目を丸くした。
「女の子……?」
エマが呟きを漏らす。
たしかにそう表現してもいい造形をしていた。
腰まで伸びた長い髪の、ワンピースを着た少女。
だがその色彩は、すべてが真っ白。着色前のフィギュアのようだ。
「いいやエマくん。あれはモンスターだ」
ヒーモの言う通り、決して人間じゃない。
そもそも物質ですらないだろう。あれは魔力の固まり。魔力が少女を形作っているだけに過ぎない。
だが、その容姿が重要なんだ。
ただの少女ならそれもいい。
だが、あれは。
「エレノア」
俺は剣の柄に手をかけた。
「こんなところに出てくるなんてな」
びっくりだ。
まじで。




