猛者ワラワラ
「なによあれ……!」
瞠目し、引き攣った声を漏らすイキール。
「あんなの、モンスター図鑑でも見たことない……!」
「新種か」
数多の茎が絡み合ってできた幹は、あまりにも太い。直径二十メートルはありそうだ。
その頂上には巨大な薔薇が咲き、不穏なオーラを放っている。幹から伸びた無数のツタには暴力的なトゲが生えまくっている。
「強そう」
真昼間の帝都にこんなバケモノが現れるなんて誰が予想しただろうか。
「公子。見て」
イキールが指した先。バカでかい薔薇の足元には、数十人の騎士達が倒れていた。
「あの装備、皇室騎士団だわ」
「死んでるな」
「皇室騎士団は選りすぐりの最精鋭部隊なのよ! それがあんな風に……」
状況を見るに、為す術もなくやられたようだ。
「おーおー。こりゃまた派手にやられてもたなぁ」
背後に気配。
振り返ると、街灯の上にしゃがみ込み、手びさしを作るオー・ルージュの姿があった。
「ルージュ。あなたも来たのね」
「緊急招集やからな。わてだけやないで。見てみ」
ルージュがくいっと顎をあげる。
見れば、巨大モンスターの前に、数人の人影が現れていた。
「フム。新種の危険指定種か。これはなかなか骨が折れそうですな」
筋肉モリモリの大柄な男が、丸太のような腕を組んで言った。
「巨大だな。エンペラードラゴンより大きいぞ」
「でも所詮植物でしょ? 焼き払っちゃえばいいのよ」
「ははは! そうだな! 人間は賢く戦わねぇとな!」
若い三人組が威勢よく得物を構える。
「ほっほっほ。これほどの邪悪と相まみえることができようとはの。長生きはしてみるもんじゃい」
枯れ木のような体の老人が、首をボキボキとすごい音を鳴らしていた。
なんか、揃って見覚えのある顔だぞ。
彼らの登場を目の当たりにして、イキールが言葉を失っていた。
「……驚いたわ。すごい顔ぶれね」
「そうなのか?」
「はぁ? あの人達を知らないの?」
「知らん」
「本当、世情に疎いのね」
上から目線で溜息を吐くなよ。
「あの大柄の男性は、デメテル軍の英雄エルゲンバッハよ。幾度の戦場を生き抜いた実戦主義の将軍で、単純な戦闘力はムッソー大将軍と並んでデメテル随一と言われているわ」
エルゲンバッハといえば、あのイカれた信念のジジイか。こっちの世界じゃ幾分か若いんだな。おそらく、全盛期といったところか。
「そしてあの三人組は新進気鋭の冒険者パーティ『トリニティ』。ランクこそA級だけど、三人の息の合った連携は、上位のS級冒険者にも匹敵する作戦遂行能力を持つともっぱらの評判よ」
それは期待ができるな。あの三人は前世界でもそれなりの実力者だった。この世界でも頑張っているんだな。
「それにあのご老人。S級冒険者のチェチェン・チェン。チェチェン老師といえば、デメテル最強の冒険者として名高いわ。聞くところによると、彼は年老いた今もこと武においては成長期の真っ只中らしいわ」
サニーの師匠だったジジイか。どう見ても百歳くらいいってそうだが、あれで現役冒険者とは頭が下がる。
「それだけじゃない。見て。ここに集まってきたのは、誰も彼も名の知れた猛者達だわ」
大公園を取り囲むように集まってきた多くの戦士達。
総勢百名を超えるだろう。
「錚々たる顔ぶれね。これならあの巨大モンスターも楽に討伐できるに決まってるわ」
イキールがなにやら不吉なことを言っている。
「ま、お前がそう言うなら俺の出る幕はないな」
他のところを助けに行ってもいいかな。
「いくぞデカブツッ! 貴様は俺達『トリニティ』が狩らせてもらうッ!」
血気盛んな若い三人組が、一番槍で勢いよく飛び出す。
そして、巨大なツタの一薙ぎで三人とも絶命した。




