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〈八鍵の教え〉

 この世界では、みんなが女神として崇められている。しかも異端信仰。

 どうしてそんなことになっているんだ。


 これもエレノアの意思なのか?

 エレノアが望んだことなのか?

 わからん。


 俺の混乱など露知らず、大臣は話を続ける。


「すべての女神に序列はありません。我々は八女神を等しく畏敬しておりますが、自身の求める加護によって特に信仰する女神を選ぶことができるのです。王女殿下ならウィッキーとサラ。わたくしめは、運命の女神ルーチェを自らの信仰神と定めております」


 多神教ならではだな。

 大臣の話を聞いていた使用人達は、ぽかんとした表情になっている。デメテルで唯一神としての女神エレノアを信仰している彼らには、とんと理解できない話だろう。

 その空気を大臣も察したようだ。


「我々はこれを〈八鍵の教え〉と呼んでおりますが、これをご理解いただくには、我々の世界観からご説明しなくてはなりません」


「世界観?」


「八鍵の信徒がどのように世界を観ているのか、そもそも世界とはなんなのか、ということです」


「なるほどね。私達は女神エレノアがすべてをお創りなったと信じているけれど、あなた方は違う、というわけね」


 イキールが苛立ちを抑えた声で言う。


「ご令嬢の仰る通りです。我々はこの世界……いわゆる物質の世界と申しましょうか。それはあくまで表層的な、仮初のものであると考えているのです。世界と生命の本質は、我々が生きているこの時空の裏側にある、とね」


 えらくマクロな話にとんだな。


「端的に言えば、こことは別に本当の世界があり、我々はそちらの世界でこそ生きるべきだと信じているのです。つまり〈真世界〉。あらゆる生命が還るべき世界です」


「その〈真世界〉とやらの神が、〈鍵の八女神〉ってことか」


「流石は小公爵様。聡明でいらっしゃる」


 〈真世界〉が前世界を指しているとすれば、グランブレイドの方がこの世界の真実をよく理解していることになる。

 それどころか『ユグドラシル・レコード』に触れたエルフが知らないことを知っている。エルフ達は前世界と外なる神の存在こそ知っていたが、〈鍵の八女神〉のことは知らなかった。


 俺は〈八鍵の教え〉の考え方をすんなりと理解できるが、デメテルで生まれ育った人々は簡単には馴染めないだろう。デメテルに〈八鍵の教え〉がまったく広まっていないのも頷ける。

 その最たる例が、俺の隣のイキールだ。


「女神エレノアが、偽物の神だって仰るのかしら?」 


「ご令嬢。それが誤解なのです。女神エレノアは紛れもなくこの世界の創世神であらせられます。我々もこれはゆるぎない事実として認識しております。その上で、我らは〈真世界〉の神を信仰の対象としているのです」


「理解に苦しむわ」


「新たな概念の理解には時間がかかるものです。地道にゆっくりと、ご理解いただくことを願います」


「創世神だと認めているなら、女神エレノアを信仰するのが道理ではないの?」


 やめろって。

 俺はまたもや、イキールのハリのある太ももを鷲掴みにした。


「大臣。我が婚約者の無礼な発言は謝罪します。しかし、デメテル国民の多くが彼女と同じ反応をするでしょう。それほどまでに〈八鍵の教え〉は衝撃的なのです」


「心得ております」


「ありがとう。ではお聞きするが、〈八鍵の教え〉を最初に説いたのは誰なのですか?」


「……なんですと?」


「どのような教えにも、それを最初に説いた者がいるはずです。女神エレノアの創世は、大預言者マクマホンが神の啓示を受けて世界に説いて回り、後にその弟子達が体系化した物語、というように」


 これは絶対に知っておかなければならない。

 前世界を取り戻す一番の手掛かりになるはずだ。


「それは――」


 大臣が、口を開く。

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