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「我が国の王サーデュークは、厳しい御方です。徹底した実力主義で執政を行い、短期間で国力を急成長させました」


「たしかに。グランブレイド王は名君だと聞く。国を興すくらいだしな」


「恐れ入ります。実力主義なのは王室も同じで、いくら王族の血筋と言えども、無能であれば廃位されるのが常です。私には兄が二人いましたが、どちらも才に恵まれず、王子の位を剥奪されました」


「その話は聞いたことがあるわ。病床に伏したからって聞いたけど」


「表向きはそうです。しかし実際は王の後継者たる資格がないと判断されたからなのです」


 厳しい親父だな。一国の王ともなればそれくらいの厳格さがあってもいいのかもしれないが。


「残った国王の子は私のみ。しかし私もまた特別優れた才を持っておりません。しかし、すべての子を廃位してしまえば血が途絶えますし、世間体も悪い。故に、優秀な者を私の代役に仕立て上げたのです」


「それがさっきの?」


 コーネリアは頷く。


「私は先程アンと名乗りましたが、その名はあの女性の名前なのです。彼女は幼い頃から特別な力を持ち、それを見出した父はずっと傍に置いておりました。私も彼女と共に育った、いわば姉妹のような関係です」


「つまり、あなたの影武者にするためにその子を拾ったってこと? いえ、それだと話が繋がらないわね」


 白い額を指で叩きながら、イキールは首を捻る。


「逆だな。コーネリアを挿げ替えようとしたんだろ」


「小公爵様の仰る通りです。才ある者がコーネリアとなり、才のない私はそれを守る騎士となる。故に王女の情報は他国はおろか国内にもほとんど出回っていません。ただ王女に特別な力があるということを除いて」


「非情ね。為政者としては優れているかもしれないけど……」


 そこから先はイキールは言わなかった。


「王となった上は致し方ありません。私も王女として生まれたからには、覚悟はしておりました」


「娘を別人に挿げ替える、ね……」


 それでいいのか。

 それが国の為になるのなら、正しいのか?

 政治ってのは情だけはできない。でも俺はあかんと思う。


「じゃああの女は影武者じゃなくて、秘密裏に入れ替わった本物の王女ってわけね」


「そういうことです」


 コーネリアは悄然としていた。

 そりゃそうだ。実の父にお前は要らないと言われたも同然だからな。コーネリアは王族の血を存続させるためだけの存在になっている。近衛騎士という立場も、王女の護衛として危険が少ないからだろう。


「王女が入れ替わったのを知ってるのは、グランブレイドにどれくらいいるんだ?」


「私も正確には把握しておりませんが、王の側近達は皆知っています。私が幼い頃から仕えていますから」


「そうか」


 重たい沈黙の中、俺はやはり紅茶を啜る。


「同情するよ。コーネリア殿下。何か力になれることがあれば、なんでも言ってほしい」


「そんな。小公爵様に気にかけて頂くことでは」


「個人的な感情のハナシさ。それに俺は、美人にめっぽう弱くてね」


「は、はぁっ?」


 コーネリアがはっとイキールを見る。

 婚約者の前で別の女を口説きだしたら、そういう反応にもなるわな。


「こういう人なのよ」


 イキールはその一言のみ。興味がないだけだろうけど、コーネリアからすれば、お互いをよく理解している良いパートナーなのだと誤解されるだろうな。

 部屋にノックが響く。


「坊ちゃま。パーティの準備が整いました」


「ああ。今行く」


 ひとまずは、影武者王女に会いに行くべきだ。

 前世界の記憶を持っているのは、そっちの方なんだからな。

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