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グランブレイドの王女登場しました

 邸宅の前庭。


 うちが手配した馬車から姿を見せたのは、漆黒のドレスを身に纏った長身の女だった。

 黒いベールで顔は隠れているが、すらりとした手足から察するに色白のようだ。

 長い黒髪を揺らして馬車を降りた女は、色とりどりの花で満ちた庭を見渡している。


「ようこそお越しくださった」


 俺は女の前に歩み出る。


「この屋敷の主。アルバレス公爵家の長男、ロートス・アルバレスです」


 一礼した俺に、女はびくりと肩を震わせた。


「あ、あ……」


 どもっている。


「あ、その……」


 彼女は自らの体を抱きしめ、もじもじしている。まともな礼一つできていなかった。

 控える従者達は戸惑い、中には青ざめる者もいる。


 彼らにとって、俺は宗主国一の大貴族の嫡男だ。万が一にも無礼があってはならないと王から厳命されているだろう。

 それなのに王女がこの様では、気が気でないだろう。

 見かねた従者の一人が慌てて口を開いた。


「小公爵様。こちらはグランブレイドの第一王女コーネリア様でございます。どうやら殿下はひどく緊張なさっているようで……どうか無礼をお許しください」


 俺は眉を顰めた。決して王女が無礼を働いたからではないが、相手がどう受け取ったかは容易に想像がつく。


「殿下は幼い時分より病弱ゆえこのような場に慣れておられないのです。どうか寛大なお心でお許しを」


 グランブレイドの面々は一様に恐々としている。ボンクラ公子の機嫌を損ねたらどうなるのかわかっているのだろう。

 俺は気を利かせなければならなかった。


「いや、お気に病むことはない。此度は無礼講ということにしよう。俺も堅苦しいのは苦手でね」


「お心遣い痛み入ります」


「シエラ。コーネリア殿下は長旅でお疲れのようだ。すぐに部屋にご案内しろ」


「かしこまりました。王女殿下、どうぞこちらへ」


 王女のことをシエラに任せた後、俺は先程弁明した従者を呼び止めた。


「ちょっとよろしいか」


「はい。小公爵様」


 その従者は若い女騎士だった。白い礼服が眩しい。王女の護衛だろう。

 短く斬り揃えられた銀のショートボブ。猫を彷彿とさせるつり目。瞳はエメラルドグリーン。王女ほどではないが背が高く、目線は俺よりすこし低いくらいだった。


「名を聞いても?」


「はっ。私は近衛騎士のアンと申します」


 アン、か。

 これは面白いことになっているな。

 俺は知らず「うーむ」と、顎をさすっていた。


「小公爵様? どうかなさいましたか?」


「もしよければ、パーティの前にお話させてもらえないか? 王女殿下について色々と聞いておきたいんだ。なにぶん、どういうお人柄かあまり知られていないようなんでね」


「……そういうことであれば、是非」


 アンなる騎士は見定めるように俺と目を合わせ、作法に則った一礼をした。


「ではこちらへ。応接室に案内しよう」


 どこか緊張感のあるやりとりを、イキールは俺の傍でじっと観察していた。

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