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新たなるアイデンティティ

 その後。

 俺はすこし頭を冷やし、自室にソロモン改めアナベルを招いていた。


「それで……何から話そうか」


「パパは何が知りたい?」


「一番気になるのは、どうしてアナベルが記憶を引き継いでいるのか。だな」


「そうね。そこが一番重要かも」


 椅子の上で優雅に茶を嗜む姿は、とてもじゃないが奴隷の身分には見えない。

 どこぞの国の王女と言われても納得できる。


「まず……そもそもだけど、あの人の創世は完全じゃなかったの」


「どういうことだ」


「理由はわからないけど、世界樹が過去の世界と連続していることがその証拠よ。本当に完全な創り直しが行われたなら、『ユグドラシル・レコード』も白紙にもどったはず」


「なるほど……世界が創り直されたって事実が記録されてること自体、完全なリセットじゃなかったってことか」


「そう。そしてその破綻は時間の概念に表れてたの。だから、正常な時間の流れから外れた存在は、リセットの影響をある程度免れたってわけね」


「それが、記憶を引き継いだ理由なのか?」


「そう。あたしは女王様の『カコオクリ』で、未来から送ってもらっていたから」


 アルドリーゼのスキル。そういうことか。


「つまり、前の世界で時間の流れがおかしかったところを探せば、元の世界を取り戻す手掛かりが見つかる?」


「たぶんね」


 いいね。

 希望が見えてきた気がするぜ。


「でも、あたしは元の世界を取り戻すとかはどうでもいい」


「え……?」


「あたしはパパとママを取り戻せたらそれでいいの。最初からそのために過去に来たんだから」


「そうなのか?」


「あたしのいた時代じゃ、世界はもう終わってた。滅びを待つだけの世界。みんな頑張ってたけど、ちっとも幸せそうじゃなかった。ママも病気になって、治る見込みもなかったわ」


「オルたそが……」


「そんな未来を変えるために、あたしは過去に跳んだの。だから、世界を創り直したあの人の気持ちもわかる」


「あの世界の未来は、そんなにも酷かったのか」


「まぁね……でも心配しないで。あたしがいた未来は、パパから見れば可能性の一つ。必ずそうなるとは限らない。現に、世界はあの人によって創り変えられた。あたしのいた時間軸じゃ、世界のリセットは起こらなかったから」


「エレノアを阻止できた世界線ってことか?」


「ううん。最初からそんな気を起こさなかっただけ」


 破滅の未来か。

 もし元の世界を取り戻したとして、その先に待っているのが滅びなのだとしたら、俺はどうすればいいのか。どうするのが正解なのか。

 いや、考えても仕方ない。何が待っていようと、もう決めたことだ。


「オルたそを取り戻すって言ってたが、どうするつもりだ? 〈八つの鍵〉だったみんなは、この世界にはいない」


「今のところ、時間の流れがおかしくなっているところをしらみつぶしに調べるしかないわ。あたしが知っていることはあんまり多くないし」


「あとは、三人目の記憶持ちが何を知っているか、だな」


 アナベルは頷く。


「グランブレイドの王族だっけ? 誰なのかはわかってるの?」


「いいや。アナベルも知らないのか」


「知らない」


 なら、結局はこっちで探らないといけないってことだな。


「ひとまずアナベルの身分を奴隷から解放しないとな」


「それなんだけど……あたしは奴隷のままの方がいいと思う」


「え、なんで?」


「あたしの容姿は、デメテルじゃ珍しいでしょ? この世界にジェルド族はいないし、そんな女が公子の傍にいたら変な噂が立つわ。だから、異国から連れてきた珍しい奴隷って風にしてた方が怪しまれずに済むんじゃないかしら」


「理屈はわかるが、実の娘を奴隷のままにしておくってのは、俺のメンタルがな……」


「だったら早くママを取り戻してね。そしたら奴隷なんかやめてすぐここから出ていくから」


「それはそれでショックなんだが」


「あはは。一緒にくればいいじゃない」


 まさかこうして、大きくなったアナベルと笑い合う日が来るなんてな。

 不思議なこともあるもんだ。

 生きていれば、無限の可能性があるってわけだな。

 よし、頑張るぞ。

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