真の血族
「坊ちゃま。おかえりなさいませ」
帰宅一番。シエラに困惑の表情で出迎えられた。
理由は明白だろう。
「ただいま。荷物は届いてるか?」
「は、はい……扱いが不明でしたので、今は中庭に」
聞くや否や、俺は足早に中庭へと向かう。
「ぼ、坊ちゃま! 奴隷を買われるなんてっ。旦那様はお許しになられたのですかっ」
俺の金で何を買おうが俺の勝手だろ。という幼稚な主張が通用するとは思っていない。
「使用人達は大騒ぎですよっ」
「あとでちゃんと説明するって」
今はシエラ達に構っている暇はない。
ほとんど小走りのような足取りで、俺は中庭に出た。
春の花が咲き乱れる庭園に、華奢な後姿がある。
まず目に映ったのは、ほっそりとした背中だ。背中の大きく開いた衣装と、健康的な褐色の肌。
そして、特徴的な紫の髪。毛先の揃ったショートカット。
いつかの記憶がフラッシュバックする。深夜の草原でこの背中を追いかけた記憶だ。
同じ背中を今、この中庭で見ている。
「キミは」
少女が振り返る。
切れ長の瞳と、視線があった。
「ソロモン……!」
かつて共に戦ったジェルド族の少女。俺とオルタンシアを、マッサ・ニャラブ共和国の内部に導いてくれた子だ。
「久しぶり」
俺の姿を見とめると、彼女はぱっと表情を明るくしてこちらに歩み寄ってきた。
以前はソロモンの渋面ばかり見ていたので、俺はちょっと面食らった。
「まえ会った時とあんまし変わってないわね」
「ああ……キミも」
ソロモンとは短い付き合いだったが、オルタンシアと仲良くしていたことはよく覚えている。同じジェルド族だから、波長が合ったのだろう。
「憶えてるんだな」
「うん」
「そうか……」
俺はそれ以上何も言えなかった。
まさかソロモンが前世界の記憶を持つ一人だとは思いもよらなかったし、そんな状態で気の利いたことを言うなんて無理だ。
「それより、まだその名前で呼ぶの?」
「え?」
「ここじゃもう偽名を使う必要なんてないんだから」
「ちょっと待ってくれ。ソロモンって、偽名だったのか?」
俺のマジ驚きに、ソロモンもマジ驚きする。
「うそ? もしかして気付いてなかったの? 本当に? ウソでしょ?」
「気付くって……なにを?」
「はぁ……あっきれた。鈍感すぎるでしょ」
ジトっとした目。バカにされている感がすごい。
「ママは割とすぐに気付いてたからね。こういうところが母親と父親の違いなのかしら」
「ママ? 父親って……」
おい。
まじか。
そんなの、マジか。
「アナベル……なのか?」
「そ」
脳天に隕石でも起きてきたんじゃないか。
それくらいの衝撃だった。




