破壊と再生と俺
ランチタイム。
俺は、ダーメンズ派の面々と食堂で昼食をとっていた。
「はっはっは。しかし傑作だったな! まさかロートスが魔法を失敗して、先生の服が透けるとは!」
ヒーモ含む男性陣は、おかしそうに笑いあげていた。
「あの先生は公子さまに恥をかかせようとしたが、むしろ恥をかいたのはあいつの方だった。まさに公子さまは天運をお持ちだ」
「違いない!」
「だがこれではっきりしたことがある!」
「なんだい?」
「魔法学園の教師は、アソコが貧弱でもなれる職業だということだ!」
「天才か!」
わっはっは。食堂の一角はダーメンズ派の品のない笑いがあがっていた。
貴族といっても、年頃の男はこういうネタが好きだな。俺も嫌いじゃない。
実際、ダーメンズ派のみんなからしたら、スカッとしたことだろう。
「あの……もうちょっと声をトーンを落とした方が……」
紅一点のエマがおずおずと主張する。女子としては恥ずかしいことこの上ないだろう。
「悪いなエマ。汚いものを見せることになっちまった」
「いえ、公子さま。あたしはそんな……」
俺はパンをもぐもぐしながら、先程の出来事を反芻する。
アルバレス公爵家は絶大な力を持つ反面、敵も多い。常に勢力争いをしているし、足を引っ張ろうと躍起になる輩はごまんといる。
ボンクラ公子が社会に出てきたものだから、それをダシに公爵家を貶めようとする者も多く現れるだろう。
何を言われても俺は平気だが、家門まで被害を受けるのは忍びない。これでも俺は両親や家臣達には感謝しているのだ。
だから、公爵家の顔に泥を塗るような真似はしないようにしないと。
「おわ」
唐突に尻ポケットが振動した。念話灯の着信だった。
「公子さま? どうされました?」
「ああ、いや。ちょっと席を外す。みんなはゆっくり食べててくれ」
俺は足早に食堂を離れると、キャンパスを歩きながら念話灯を耳に当てる。
「もしもし」
『おお。つながったか』
「フィードリッドか」
『そうだ。その後、調子はどうだ』
「ぼちぼちかな。んで、どうした? 世間話をするためにかけたんじゃないだろ?」
『うむ。この前の会議で話していた、創世前の記憶を持つ者のことだが』
鼓動がすこし速まる。俺にとって聞き逃せない情報だ。
『そちらに送った』
「えっ?」
『魔法学園に送ったのだ。物資を搬入する商人ギルドに紛れ込ませている。今日の夕方に到着する予定だ』
「なんでこっちに」
『本人が会いたがっているのだ。いきなりワタシ達と話すよりも、お前の方が実りのある会話ができるだろう』
「まじかよ。しかし急だな」
『何事もスピードが命だ。もたもたしていれば世界は変えられん。偽りのものとはいえ、ワタシ達の敵は神なのだから』
「……わかった。俺はどこにいけばいい?」
『ロートス。所持金はいくらだ?』
「金か? 持ち歩いてないけど」
『なんだと? 天下の公爵家の息子が』
「天下の公爵家の息子だからだよ。現金なんか持ち歩かない」
『そういうものか。なら夕方までに百万エーンを用意しておけ。商人ギルドの中にいるラビアン商会に接触して、荷物を受け取るんだ』
「ひゃくまん? なにを買うんだよ」
『言っただろう。紛れ込ませていると』
「人に紛れてるんじゃなくて、物資の中に紛れているのかよ」
『そうだ』
「亡命者じゃあるまいし」
『似たようなものだ。百万だぞ。忘れるなよ』
「そんな大金。簡単に言ってくれるぜ」
『公爵家からすればほんのはした金だろう』
「そうだけど……」
まぁ、とりあえず言う通りにしよう。
「わかった。夕方に来るラビアン商会に接触すればいいんだな」
『そうだ。首尾よく頼むぞ』
「りょうかい」
念話終了。
さて、いよいよ動き出したか。
〝ユグドラシル〟が魔法学園に干渉する段階に入った。
俺の役割は学生として生活しながら情報を収拾することだが、それだけじゃ物足りない。
前世界の記憶を持つという人物と合流して、元の世界を取り戻すために動かないとな。
「はは」
やる気が出てきた。
生きる気力が湧いてきた。
俺はやっと、この世界で生きる意味を思い出したのかもしれない。
まずはこの世界を、あるべき姿に戻す。
神ではなく、俺が望むように。
エレノアの我儘を、打ち砕くんだ。




