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デスティニーとフェイト、そしてフォーチュン

「あなた達二人は、まったく別のアプローチで運命を操作されています。エレノアちゃんは一つの超絶神スキルを与えられ、あなたは無数のクソスキルを手にした」


 アデライト先生が口にする研究内容は、すべて紙面に書かれている。俺は愕然とするしかない。


「別々のアプローチとはいえ、目的は同じ」


「目的……?」


 先生は頷く。


「ヘッケラー機関が存在する意義は、最強の人間を生み出すことなのです」


 なんだよ。その頭の悪そうな最終目標は。


「獣人をはじめ、エルフ、ヴァンパイア、ドワーフなどの亜人種を抑え、世界の覇者となるために、機関は力を欲しているのです」


「途端に話が大きくなってきたな。そんなの、国が黙ってないんじゃないんですか」


「ヘッケラー機関に手出しは出来ません。たとえ国王陛下といえど、干渉は難しいでしょう。そのあたりは、政治的に極めて複雑な事情があるのです」


 俺は考えるふりして腕を組む。


 なんとも余計なことをしてくれる。


 チート能力をもって転生したはずの俺がどうしてクソスキルしか貰えなかったのかがこれではっきりしたな。

 チートスキルで無双するという俺の運命を、ヘッケラー機関、いや、あのクソ両親どもが書き換えたってわけだ。


 思わず笑い交じりの溜息が漏れる。


 馬鹿な連中だ。何もしなければ、俺は最初から最強として生まれてきたというのに。気の毒なことに俺は最弱劣等職の『無職』になってしまった。


 とはいえ、俺はかなりショックを受けていた。

 クソみたいな人間だったとはいえ、転生後の俺を十三年間育ててくれた両親だと信じていたのだ。それなりに愛情だって持っていた。だが真実はこれでは、裏切られたと感じるのも無理はない。


「先生。どうして俺にこのことを教えたんです? 別に知らせずに放っておくことだってできたでしょう」


「ごめんなさい……」


「別に責めているわけじゃない。教えてくれたことには感謝しています。真実を知るか知らないか。どちらがいいかは人によるでしょうが、少なくとも俺は辛い思いをしてでも真実を知りたいと思う。ただ、理由が知りたいんです。あなたに何か思惑があるのかどうか」


「ロートスさんあなたは……とても十三歳とは思えません。大人びていますね」


 そりゃ転生前をあわせたら軽く三十年以上は生きている計算だからな。一度死んでいるし、ある程度達観している自覚はある。


「わかりました。理由をお話しします」


 先生は居住まいを正し、膝の上に手を置いた。


「一つは良心。正義感と言い換えてもいいかもしれません。私も、真実を知るべきだと思うタチですから」


 俺はルーチェが淹れた紅茶を含む。


「もう一つは、保身です」


「……保身? どういうことです」


「よいですかロートスさん。言うなればあなたは機関の寵児。彼らが求めてやまなかった研究の集大成なのです。あなたと一緒にいれば、機関も私に対して危害を加えられないでしょう。あなたを敵に回したくないがために。ですから私は、その良し悪しに拘わらず、あなたが放っておけない存在になる必要があるのです」


「なるほど……」


 わかったようなわからんような。


「まぁ、事情はなんとなく理解しました。けれど一つわからないことが」


「なんでしょう?」


「俺とエレノアには、どうして監視がついていないんです? 機関の寵児というのなら、目を離すはずはないでしょうに」


 アデライト先生は何度か首を振り、瞼を落とした。


「もちろん、監視はついていたでしょう。この学園に入るまでは」


 なんだと。どういうことだ。


「魔法学園は治外法権。ここには機関の目も手も届きません。ウィッキーが侵入できたのはあの子が常軌を逸して優秀だったからです。一介の監視員であれば、そんなことは絶対に無理です」


 なんだ。じゃあどうして俺とエレノアは魔法学園に入学させられたんだ? わからん。頭がこんがらがってきた。

 まぁ複雑なことは後回しだ。とにかく、これからどうするかを考えなければ。いや、考えるまでもないか。


「無視だな」


 俺は語気を強くして言い切った。


「運命が操作されたとかどうとか関係ない。そもそも俺は、人生ってのは自分の手足で切り開くもんだと思ってる。人間には運命に抗う力があるってな。だからさ、よく考えたら、あんまり関係ないんだよ。そんな話は」


「ロートスさん?」


「俺は俺の生きたいように生きる。極力目立たないように、ひっそりのんびりとスローライフを過ごすのさ。決めたよ先生。その為なら、俺はどんな運命にも立ち向かってみせる。ヘッケラー機関の思惑なんて、クソくらえだ」

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