勝敗を分けた大小
邸宅に帰った俺を迎えてくれたのは、シエラとメイド達だった。
「おかえりなさいませ、坊ちゃま」
「ああ」
シエラに上着を預けながら、俺はふと浮かんだ疑問を口にした。
「なぁシエラ。テオドア子爵家について詳しいか?」
「テオドア、ですか? 詳しいというほどではありませんが、存じております」
「どんな家だ?」
「いわゆる没落貴族ですね。十年ほど前まで栄えていましたが、ヴィクトリア皇帝陛下の代になってからは衰退の一途を辿っています」
俺はシエラを伴って自室へと向かう。
「というのも、先の皇位継承争いの際、テオドア子爵はジョン殿下派だったのです」
「ジョン殿下って、先帝の弟だったっけ」
「はい。しかしジョン殿下はヴィクトリア陛下に敗れ失脚。ジョン殿下派だった貴族達のほとんどは多かれ少なかれ領地や爵位を剥奪され、没落しています。もちろんテオドア子爵家も例外ではありません」
「なるほど。そういうことか」
「学園で何かあったのですか?」
「ちょっとな。テオドア子爵の令嬢と関わる機会があっただけだ」
「……お気を付けください坊ちゃま。アルバレス公爵家はデメテル一の大貴族。その影響力は皇帝陛下にも引けをとりません。公爵家の権威に群がる身の程知らずな者共のいかに多いことか」
「みなまで言うな。わかってる」
俺は自室へ入ると、ソファへと身を沈めた。
「お茶をお淹れいたしますか?」
「頼む」
エマは没落した家門の復興を狙って俺に近づいてきたにちがいない。親に言い含められていたのだろうか。
力のある家門の人間に取り入って、返り咲くチャンスを得る。貴族の世界じゃよくあることだ。
「坊ちゃま。明日はクラス分け試験ですね。坊ちゃまの実力なら、スペリオルクラスは確実だと思いますが」
「スペリオルか……どうかな。学園じゃイカサマをしないつもりだからな」
「イカサマ?」
「ああ。『エクソダス』で見せた魔法と剣技。あれはイカサマなんだよ」
首を傾げるシエラを尻目に、俺はお茶を口に含む。
魔法学園において、生徒はその能力によって五つのクラスに分けられる。
最上級のスペリオルクラス。
上級のマスタークラス。
中級のエリートクラス。
下級のベースクラス。
最下級のボトムクラス。
入学時のクラス分け試験によってどこに入るかが決まり、進級時に一年の成績を考慮して上がったり下がったりする。
このシステムは、前世界の魔法学園とまったく同じだった。
試験は、学園内にあるセーフダンジョン『クロニクル』にて行われるようだ。
「セーフダンジョンか。信用ならないな」
公爵領の『ジェネシス』しかり、グレーデン領の『エクソダス』しかり、立て続けにセーフダンジョンでペネトレーションが起こっている。
今回もその可能性は十分あるだろう。
むしろ〝ユグドラシル〟が狙わないわけがない。世界の破滅を目論むなら、優秀な魔導師を育てる魔法学園に打撃を与えるのは極めて有効だ。
無論、学園側もなんらかの対策は講じているとは思うけど、果たしてどこまで効果があるものか。
とにかく、明日は何も起こらないことを祈るだけだ。
「シエラ。今日は早めに休みたい」
「かしこまりました。夕食の時間を早めます」
シエラが部屋から出ていった後、俺はソファに寝そべって深呼吸をした。
没落貴族のエマ・テオドアか。
これからも彼女のような者が現れるのだろうか。そう考えると気が重い。
告白は振る方も辛いという話も理解できる。
しかし、彼女が貧乳でよかった。
もし巨乳だったら、ころっといってたかもしれないからな。




