話
「揃う……か。神性を集めて、一体なにをするつもりだ。エレノア」
「言うに及ばないわ。あなたも原初の女神の存在に思い至ったのでしょう?」
「本当に世界をリセットするつもりか。何の為に」
「……それこそ言う必要はないわ」
まじか。
エレノアの動機がわかれば、説得もできるかもしれないってのに。
どうやら話し合いに応じる気はないらしい。
俺はサラを一瞥する。緊張感のある面持ちで、胸の前で拳を握っていた。
「エレノアよ。正直俺は、世界をリセットしてほしくないと思っている」
「ええ。あなたはそうでしょう。そういう人だもの。でもあたしは違う」
「なに?」
「すべてをなかったことにしても、手に入れたいものがある」
エレノアの手に、光の剣が生まれる。
「戦うしかないってのか」
「選べばいい。世界か、あたしか」
どういうことだ。
どうしてその二択なんだよ。
わけわかんねぇけど、とにかくやるしかないようだ。
なにせ、エレノアの殺気はホンモノだ。
俺は一瞬だけ、アイリスと目を合わせた。
それだけで、アイリスは俺の意を汲み、即座に行動を開始した。サラとルーチェ、オルタンシアを抱えて、この空間から脱出を試みたのだ。
それに反応したエレノアは、アイリスに向けて光の剣を投擲する。しかし、その攻撃はセレンの魔法によって迎撃されていた。
「あなたも邪魔をするのね。セレン」
「とーぜん」
セレンのスキル『ロックオン』が、エレノアを確実に捉えている。
かつて共闘してドラゴンを討伐した仲だ。多少なりとも思うところはあるのだろう。
エレノアは再び光の剣を握った。
意思は固い、か。
アイリス達はすでに退避を完了していた。すでにこの空間に四人の姿はない。
「本当に、戦うしかないのか」
和解の未練を断ち切れず、俺は今一度問うた。
だが、エレノアの表情は変わらない。
「あなたの決意も固いでしょう。もう、言葉は意味を持たない。あたしがあなたの間違いを気付かせてあげるわ」
「……わかった」
俺は腰の剣に手をかける。
一触即発とはこのことだ。
コップになみなみと注がれた水が、今まさに溢れようとした、その瞬間。
「ちょっと待つんだ」
教皇が待ったをかけた。
「聖女エレノア。話はまだ終わってないんだ」
「言ったはずよ。言葉は意味を持たないと」
「勝手に決めてもらっては困るんだ。言葉とは人が生み出した智慧の極みなんだ。意味を失うなんてことはありえないんだ。あるとすればそれは、言葉を尽くす努力の不足によって起こる錯覚に他ならないんだ」
「この期に及んで話し合えっていうの?」
「その価値は十分にあるんだ」
「ないわ」
「あるんだ。なぜなら、話によってはマーテリアの封印を解くのも吝かでないと、ロートス・アルバレスが言っているからなんだ」
なんだって。
教皇の奴、どういうつもりだ。




