真なる女神との邂逅
俺達の目の前に落ちてきたのは、一人の少女。
きわどいレオタード姿の、ロリっ子である。
「ファルトゥールだ……!」
「なんですって……!」
アデライト先生が、駆け寄ってくる。
「これは……!」
ファルトゥールは傷だらけだった。全身を斬り刻まれ、血まみれになっている。
「そんなバカな……なんだ。女神が血を流すはずが……ないんだ」
さしもの教皇も、ニコニコを忘れている。
「……死んでおる」
ファルトゥールの前でしゃがみ込んだアカネが、神妙な声色で言う。
「死……? アカネ、それマジかよ」
「マジじゃ」
「でも、神に死っていう概念はないんじゃ……」
「正確には、この肉体の生命活動が停止しておる、ということじゃ。ファルトゥールという存在そのものは、エンディオーネと同じように〈座〉におるはずじゃ」
「じゃあ、ファルトゥールの神性も失われたってことか? エレノアが、奪った?」
「いや――」
その時だった。
大きな地鳴りが、広間に響き渡った。
「なに……これ……!」
ルーチェがバランスを崩して座り込む。
地鳴りはしばらく続いた後、何もなかったかのように静まった。
「かなり大きかったっすね。地震なんて久しぶりっす」
「師匠、今のは地震じゃない」
「え?」
ウィッキーの言葉を、セレンが否定した。
「見て」
セレンが指さしたのは、広間の奥だ。
金属で作られた頑丈そうな壁には、大きな穴が空き、そこから巨大な歯車型のゲートが覗いていた。ゲートだと分かったのは、それが開いており、奥に道が続いていたからだ。
「この先にまだ空間があったのか」
みんな、崩れた壁をじっと見据えている。
「ロートスさん」
「はい」
アデライト先生の声に、俺はしっかりと答えた。
「やっぱり、ここにいたか」
ゲートの奥から、現れた人影。
白い法衣に身を包んだ、青みがかった長い髪の少女。
うす暗い空間を、迷わずこちらへと歩いてくる。
コツ、コツ、と、ブーツの靴底で固い足音を鳴らしながら。
そして、クリスタルの光に照らされ、その顔が露わになった。
真面目な表情を浮かべた、愛する幼馴染。
「ようやく会えたな。エレノア」
立ち止まったエレノアは、眉一つ動かさず、じっと俺を見据えた。
「ええ、そうね。ようやく」
次の瞬間。
エレノアが大きく両手を開いたの同時に、背中に二対の翼が顕現した。一対は澄んだ緑、一対は燃えるような赤。そこから舞い散る無数の羽は、それぞれの色を宿している。
「お前……それは」
俺にはわかる。
あれは、女神の神性の顕れだ。
二対。
つまり、エレノアが取り込んだエンディオーネとファルトゥールの神性を表している。
「人間をやめおったか」
アカネが噛みしめるように呟く。
「そんなもの、とっくにやめてるわ」
エレノアは事もなげに言う。
「さあ。早くマーテリアの封印を解きなさい。それで、すべてが揃う」
それは紛れもなく、荘厳なる女神の言葉だった。




