神とは
「我々はみんな〈妙なる祈り〉の影響を色濃く受けた者達です。神になる素養は十分にある。だからこそ〈八つの鍵〉になりうる。すなわち、鍵とは新たな神の卵のようなもの……ということでしょうか」
「その通りなんだ」
教皇はニコニコしたままうんうんと頷いている。
「新たに誕生する神は、一人だけじゃない。〈尊き者〉ロートス・アルバレスを中心とした、八人の女神。九人で根源粒子を生み出せば、一人一人の負担は大幅に軽減されるんだ。そのために、〈妙なる祈り〉っていう力が必要なんだ」
ふむ。
神になるために、人のみが持つ〈妙なる祈り〉の力が必要だとな。
なんというか、人から神が生まれるのを予測していたかのようだ。
「教皇。疑問がある」
「言ってみるんだ」
「聖ファナティック教会は、どうしてそんなことを知ってる? 正直、この世界の真の事実をすべて知ってるみたいで、逆に疑わしいんだけど」
「気持ちはわかるんだ」
教皇は歩きながらもニコニコ笑顔を崩さない。どうみてもヨボヨボの老人なのに、急斜面の上り坂をぐんぐん歩いていくのは、不思議な感じがした。
「だけど、すべては女神エンディオーネがヴリキャス帝国を建国した際に、あらかじめ決められていたことなんだ。大昔に、古代人とノームが争い、マーテリアとファルトゥールの戦いが起こった時、その後の世界を見据えて、計画を練っていたんだ」
「新たな神を創るって?」
教皇は頷く。
「女神エンディオーネは、姉妹に愛想が尽きていたんだ。だから、この世界に生きる生命を守るために、この世界に生きる者の中から神を選ぼうと思ったんだ」
「それが〈尊き者〉ってわけか」
「〈尊き者〉にキミが選ばれたのには理由があるんだ。それはこの世界の住人でありながら、この世界に執着しない。ある意味、第三者的な視点を持てるからなんだ」
「俺が、転生者だから?」
「というより、異世界から来たことに強い自覚を持っているからなんだ。そういった世界を客観視できる人間の土台に、この世界で生まれた命の柱を打ち立てるんだ。そうすれば、これまでの三女神の世界を存続しつつ、まったく新しい世界を創ることができるんだ。文字通り、世界は生まれ変わるんだ」
「つまりそれが、世界のリセットだと?」
「そういう言い方もできるってことなんだ」
うーん。
よくわからんけど、エレノアを助けて、世界を救うために俺達が神になるってことでいいのか。
だけど。
みんなが神になるって、そんなことアリなのか?
俺は後ろを振り返る。
みんなと目が合い、俺が考えていることは伝わったようだった。
「ご主人様。心配いらないのです。みんな、同じ気持ちなのです」
「サラ」
「ロートスだけに辛い道を行かせるわけないっすよ」
ウィッキーもこう言ってくれている。
誰も否定の言葉を口にしない。
「わかった」
だったら、なってやろうじゃないか。
この世界の柱に。
新しい神に。
「長く続いた女神の世界を終わらせて、俺達の世界を創るんだ」
それが、人の運命を解放することに繋がるなら、神だろうなんだろうとなってやるさ。




