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ここまでがプロローグみたいなもん

「私はダーメンズ子爵家から転職して参りました。ダーナ男爵家の次女。ソルヴェルーチェ・ウル・ダーナでございます」


 なんかすごい名前の子が来たな。


「男爵家? じゃあ君は、貴族なのか?」


「はい」


「貴族なのにメイドを?」


 ソルヴェルーチェは頭の上にはてなを浮かべてから、得心したように手を叩いた。


「私のような下級貴族の女子は、より格の高い家にメイドとして働きに出るものなのですよ。礼儀作法を学ぶためでもありまして。いわゆる行儀見習いといわれるものですね」


「そうなのか?」


 俺は後ろの従者二人に聞くが、どちらも分かっていなさそうな感じだ。


「一言に使用人といっても位がありますから。私は貴族の娘ですから、ある程度の役職を頂いていました」


「位って言ってもな……君は一人でこの家に来たんだろ? 使用人は君一人だぞ?」


「わかっています。ですから私がこの家のメイド長。それに、旦那様は従者を二人お連れですよね? 家事や身の回りのお世話は、その二人にもやってもらいますから」


「こいつらに?」


 どうしよう。めちゃくちゃ不安なんだが。

 サラもアイリスも、家政ができるような育ちじゃなさそうだしな。


 俺の心配そうな顔を見て、ソルヴェルーチェはくすりと笑う。


「ちゃんと私が指導しますから。ね?」


 そう言って、サラとアイリスにウィンクを飛ばす。


「が、がんばりますっ」


「わたくしも、力を尽くしますわ。他でもないマスターの為なら」


「ん。よろしい」


 まぁ、そうだな。今できなくもおいおいできるようになればいいか。


「他にも、私はメイド長としてこの家の管理全般を担います。旦那様がご学業に専念できるよう、面倒なことはすべてこのソルヴェルーチェにお任せください」


 胸に手を当てて自信ありげなポーズをとるソルヴェルーチェ。

 うむ、それなりにあるな。おっぱい。


「そりゃあ助かるが……」


「何かお気にかかることが?」


 正直、貴族の女の子に傅かれるのは居心地が悪い。現代日本的な感覚、価値観が抜けてないとはいえ、一応この世界の住人としての価値観だって持ち合わせている。


 そういう意味で、そもそも貴族に敬語を使われることさえなんとなくそわそわするんだよなぁ。


「俺は平民だ。貴族の娘を使用人になんて、そんな身分じゃない」


「ああ、なるほど。お気持ちはわかります。ですが私は、旦那様のご身分に仕えるわけではありません。ロートス・アルバレスという一人の男性に仕えたいと思ったから、転職のお話を受けたのです」


「……俺はクソスキルしか持たない『無職』。社会の底辺を体現した者だぞ? どうして俺のことをそんな風に思う? ダーメンズ家にいたせいで、ダメな男に仕える癖がついたんじゃないだろうな」


 俺のすごい失礼な質問に対し、彼女は人差し指を唇に触れさせながらのウィンクで答えた。


「今は申し上げられません。ヒントは、私のスキルにあるとだけ」


 ふむ。

 謎多き少女だな。まあいい。


 でも、俺にも譲れないところはあるんだ。


「ひとつお願いがある」


「なんなりと」


「敬語はやめてくれ。貴族に敬語を使われると背中にできものができるんだ。平民病ってやつだな。旦那様もよしてくれ。ロートスでいい」


 俺なりのユーモアが通じたようだ。ソルヴェルーチェはくつくつと笑いを漏らして、細めた瞳を俺を見た。


「うんわかった。じゃあ、そうさせてもらうね、ロートスくん」


 不意にどきりとした。

 彼女の青い瞳は、見つめていると吸い込まれそうなくらいに澄んでいる。

 改めて、とてつもない美少女だということに気付いてしまった。


「私のことはルーチェで。あ、呼び捨てでいいからね」


「ああ、わかった。これからよろしくな、ルーチェ」


「こちらこそ」


 俺達はどちらからともなく握手を交わした。そして、二人していい笑顔を向け合う。


 視界の端では、頬を膨らませて俺達を見るサラが映っていた。

 アイリスは相変わらず、柔らかい微笑みを浮かべたままだ。


 さぁ、やっと一段落ついたな。

 明日から、魔法学園での生活が始まるのだ。


 あれ?

 けど結局クラスは、どこになるんだろうな。

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