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最初からそのために

「世界が消滅するということを承知で、女神を滅ぼそうというのですか」


 アデライト先生の語気がわずかに強くなる。


「待ってくれなんだ。話は最後まで聞くべきなんだ」


 教皇は動じない。


「女神を滅ぼしても世界が存続する方法があるんだ」


「それは?」


「女神に代わる、新たな神の誕生なんだ」


 なんだって。


「おい教皇。一体どういうことだ」


 俺は思わず声をあげた。


「お前まさか、自分が神になるつもりじゃないだろうな」


 俺が口にしたのは、他のみんなも考えたであろう可能性だ。

 女神を滅ぼし、自ら神に取って代わろうと思っているのだとしたら、教皇の野心は相当なものということになる。

 教皇はニコニコした笑みを浮かべたまま俺を見る。


「いくらなんでも、そのような大それたことは考えてないんだ」


「では、猊下は新たな神の誕生をどのようにされるおつもりなのですか?」


「それなんだ」


 教皇はしわしわの人指し指をぴんと立てた。


「そこにこそ、ヴリキャス帝国という国家の存在意義があるんだ」


「あっ」


 ルーチェがはっとした表情になる。


「なるほど……そういうことですか」


「理解したのじゃ」


 アデライト先生やアカネが何かに気付いたように顔を見合わせ、セレン、サラ、オルタンシアも一拍遅れて同じ結論に思い至ったようだった。


「え? なんすか? どういうことっすか?」


「わたくしにもさっぱり」


 ウィッキーとアイリスはまだわかっていないようだ。

 かくいう俺も、わかってない。


「ご主人様もご存じのはずなのです。ヴリキャス帝国建国の起源」


「起源。ああ、たしか、エンディオーネが帝国を作ったっていう」


「それなのです」


 え、どういうこと。

 教皇の話し声に余りにも抑揚がなかったためか、俺はぴんときてない。

 俺の疑問には、セレンが答えてくれた。


「〈尊き者〉」


「……えっ」


 そのワードを聞いて、俺はやっと理解した。


「おい、まさか」


「そのまさかなのじゃ。ヴリキャス帝国建国以来ずぅっと続いている聖ファナティック教会。その目的がこのようなことじゃったとは、思いもよらんかったわ」


「すべては女神エンディオーネの思し召しなんだ。女神エンディオーネの悲願を成就させることが、ワシらの使命であり、生きる意味なんだ」


 そうか。

 そういうことだったのか。


 〈尊き者〉。

 〈八つの鍵〉。

 〈妙なる祈り〉。


 最初から全部、エンディオーネの計画だったのか。


「原初の女神を滅ぼして、新たな世界の柱となる神を誕生させるんだ。新たな神とは、お前のことなんだ。ロートス・アルバレス」


 教皇が、答えを明言した。

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