姿も見ずに、打倒
それによって生じた現象は、まさに壮絶と言えた。
拳の打点から広がったエネルギーが、神の山を覆う森を地面ごとめくり上げていく。土や泥を舞いあげ、数々の大木を吹き飛ばし、竜巻のような突風を起こして、空の彼方へと運んでいく。
鬱蒼とした森だったダンジョンは、ほんの数秒後には禿山に変わっていた。
たった一発のパンチが、広大なダンジョンをひっくり返す。その事実は、まさに新たな神話の幕開けを示していると言えなくない。
「うわぁ……これは、信じられないっす……!」
変貌していく景色を目にしたウィッキー達は、文字通り目を丸くしていた。
「流石はわたくしのマスターですわ。拳一つで地形を変えてしまわれるなんて」
「まさに英雄の所業」
アイリスとセレンも褒めてくれるが、別に大したことはない。
「ウィッキーのアルバ・アムレートがすごいだけだ。俺はただ単にパンチしただけだよ」
「いやいや、いくらウチの魔法がすごいからって、一撃で山の表面を一掃するなんてことにはなんないっすよ」
呆れたように言うウィッキー。
「まぁこれで、視界がひらけただろ? モンスターも見つけやすくなったはずだ」
「もう見つける必要はない」
淡々としたセレンの言葉。
「どういうことだ?」
「さっきの衝撃で、モンスターは消滅してた」
「え? そうなん?」
「巻き添え」
まぁ、そういうこともあるわな。
「見て」
セレンが空を指さす。
曇天に、細かい罅割れが生まれる。
「ボスモンスターの消滅によって、ダンジョンが崩壊してる」
罅割れはどんどん拡がっていき、空は細かい網目状の線に覆いつくされた。
そして、空が砕け散る。
音はない。感じるのは、全身を撫でる温い風だけ。
次の瞬間には、俺達は再び暗い森の中に立っていた。
「戻ってきた、のか」
「森が元通りになってるっす」
「さっき破壊したのはダンジョン化した空間。元々の神の山とは別物」
なるほどな。
「けどこれで、安全は確保できたことになるな。アイリス。先生達を呼んできてくれ」
「かしこまりましたわ」
アイリスが軽やかに跳躍し、麓の小屋に向かう。
その後、俺達は全員合流し、神の山を登り、聖域へと辿り着いた。
「これは……なんでしょう? 壁?」
サラが目の前にそびえる城門を見上げて、感嘆の息を吐いた。
「聖域を守る外郭じゃな。この向こう側に、かつて古代人が繁栄した都市の遺跡群がある」
そういえば、以前ここにきた時は、アンがこの城門を開けていたな。
「どうやって開ければいいんだ?」
「私に任せて」
前に出たのは、ルーチェだった。




