ここはラスダンかな
「見てくださいご主人様。建物があるのです」
サラが指さしたのは、山道の入口だ。
そこには比較的新しく建てられた小屋がある。しばらく放置されていたのか、周囲には鬱蒼とした雑草が生い茂っていた。
「アンが使っていた家だな」
「魔王が、ですか?」
「ああ。以前オルたそとここに来た時、あそこにアンがいた」
二年前のことを思い出す。
「使えるようなら、後発隊はあの小屋で待機します。中に入りましょう」
アデライト先生が車を降りて小屋に近づき、くすんだ窓から中の様子を確認する。
そして、すぐに戻ってきた。
「どうですか?」
「ええ。問題なさそうです」
よかった。狭い車内で待機ってのもなかなか疲れるからな。
「じゃあ、早速だが先行部隊は出発しよう。準備はいいか?」
アイリス、ウィッキー、セレンに視線を巡らして言う。
「いつでも行けますわ。マスター」
「ウチもっす」
「準備万端」
よっしゃ。
俺達は順番に降車する。
「気をつけてね」
ルーチェがあまりにも不安そうに言うものだから、俺は彼女の手を握って、自分の額に押し付けた。
「心配するな。大丈夫だ」
「私は神族の末裔だから、神の山の恐ろしさを知ってる。本当に、何が起こるかわからない。無茶はしないで」
「ああ。そうだな」
とは言いつつも俺は無茶をするつもり満々だ。
ここには最初から、無茶をしに来たようなものなんだからな。
「ほれ。さっさと行くのじゃ。時間は限られておるぞ」
「ああ。みんなを頼む」
俺とアカネは、アイコンタクトで心を通じ合わせる。
そしてついに、俺は神の山に再び足を踏み入れることとなった。
「行こう」
山道に入った、次の瞬間。
「あっ」
空気が一変した。
頭上は暗雲たちこめる空。
鬱蒼とした山中は暗く、外界の光など一切届かない空間だ。
「ダンジョン化、しておりますわね」
アイリスは相変わらずのほほんとした様子だ。
「瘴気の影響っすね。もともとダンジョン化しやすい土壌だったところが、濃い神性を帯びて完全にダンジョンになったんすよ」
俺は背後を振り返る。
すでに色のある霧によって帰り道は塞がれていた。
「まじか」
「念話も繋がらない」
セレンが念話灯片手に首を振っている。
「早速分断されたか。どうする?」
「入ったばっかりっすから、異変を感じた先輩達がすぐに入ってくるんじゃないっすか?」
「いえ。同じ場所から山に入ったとしても、同じ場所に辿り着くとは限りませんわ。ここはすでに異界なのですから」
「進むしかないってことだな」
最初から計画が狂っちまった。
だが、戦いというのは往々にしてそんなものだ。
予定通りいく方が稀なんだよな。
高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変にやるしかない。
「警戒していこう」
俺達は、ダンジョン化した神の山を進み始める。




