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そして新生活へ

 貴族寮を出たところで、一台の馬車が停まっていた。傍に佇むのはアカネだった。


「ほれ、早くのらんか。新居まで送らせてもらうでな」


「ああ。そりゃどうも」


 馬車に乗るのは初めての体験だ。だけど、今の俺はどうもはしゃぐ気にはなれない。


 俺達は大きな箱型の馬車に乗り込み、腰かける。俺の隣にサラ。対面にアイリスとアカネだ。


「エレノアのやつ、大丈夫かな」


 沈黙の中、俺はぽつりと呟いた。ほとんど無意識の言葉だった。


「ご心配ですか?」


「まぁな」


 アイリスを責めるつもりは毛頭ないが、すこしやりすぎた感は否めない。


「完全にプライドをへし折った感じでしたもんね」


 サラの言葉には、俺も同感だ。


「しかし、あの小娘の才能は末恐ろしいものよ。あの歳で上級魔法を二つも使えるとはのう。スペリオルクラスに選ばれたのも頷けるというものじゃ」


「スペリオルクラスね……」


 その優秀なエレノアを一蹴したアイリスはやばいってことかな。スライムってこんなに強いモンスターだったんだな。アイリスが特別なだけかもしれないが。


「あ!」


 俺は思わず声を大きくした。皆の視線が集まる。


「ご主人様? どうしたんですか?」


「決闘が始まったせいで忘れてたが、結局俺のクラスはどこだったんだ? スクリーンに名前なかったよな?」


「そういえば……」


「馬鹿な。そんなことあるものか。どうせ見落としたとかじゃろう?」


「いや、なかったぜ。そもそも俺は平民には珍しい苗字持ちなんだ。見落とすわけがない」


 家名を持つのは大体貴族だが、俺は何故かアルバレスの姓を持っている。そのあたりの事情は知らない。両親に聞けばわかるかもだが。


 なんやかんやで、王都の中心に辿り着く。一等地の一画に佇む豪邸が、俺の新居らしかった。


 すでに雨は上がっていた。空には虹がかかっている。


 馬車から降りた俺達は、目の前の豪邸を見上げて感動の声を漏らしていた。


「すげぇ」


「すっごいですねー」


「とても立派ですわ」


 広い庭付き。映画やゲームに出てくるような洋館だ。しかも三階建て。


「ほんとにこんなおうちに住めるんですか!」


 サラがぴょんぴょんと跳ねている。俺も同じような気持ちだ。


「まさしく、マスターに相応しい住居ですわね」


「うんうん! ボク達のご主人様には、これくらいの豪邸じゃないと釣り合わないよね!」


 それは過大評価というものだが、嬉しいのは確かだ。

 ヒーモめ。ダメ男だが、こういうところはやっぱり貴族だな。


「わらわはここまでじゃ。また縁があれば会うこともあるじゃろう」


 そう言ってアカネは馬車に乗り込む。


「分からぬことがあれば中にいるメイドに聞け。じゃあの」


 挨拶もそこそこに、アカネを乗せた馬車は王都の喧騒の中に消えていった。


 中にいるメイドだって?


「そういえば言ってましたね。使用人を支度させるって」


「メイドか……」


 恥ずかしながら、俺は浮足立ち始めていた。


 だってメイドだぞ?

 全男子の憧れだぞ?


 これが浮つかずにいられるか。


「いくぞっ」


 こうしちゃいられん。俺は門を開き、入口へと走った。


「あ! ご主人様!」


「わたくし達も参りましょう、サラ」


 後ろから追いかけてくる二人を確認して、俺は屋敷の扉を開いた。


 まずあったのは吹き抜けのエントランス。真ん中に大階段があり、二階には回廊が巡っている。

 そして。


「お帰りなさいませ。旦那様」


 折り目正しく一礼したのは、ノースリーブのミニスカメイド服に身を包んだ、艶やかな短い黒髪と健康的な褐色の肌が魅力的な少女であった。


 俺は迷わず『イヤーズオールドアナライズ』を発動する。

 十三歳。同じ歳だ!

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