神の勧誘
「ロートスさん。この場所に見覚えはありませんか?」
壁に映し出された映像が、ぐんぐんと移動する。まるで一人称のカメラを見ているかのように。
そして辿り着いたのは、暗くてだだっ広い空間。
そこには、巨大なクリスタルと、その中で眠る女の姿があった。白い衣を纏ったすっごい巨乳のパツキン美女。
「忘れるわけない」
クリスタルを貫くように八本の鎖が伸び、美女を縛り付けている。その鎖は、壁に設置された色とりどりのクリスタルに繋がれていた。
だがよく見ると、一本の鎖は千切れており、クリスタルの一部が砕けて欠けている。
あれはオルタンシアがやったやつだ。〈八つの鍵〉として、封印の一部を解いた証である。
「マーテリアだ」
それを聞いた先生は、得心したように頷いた。
「やはり、これが女神マーテリアなのですね」
「どうしてこの映像を?」
「実は……」
先生の視線が映像に向く。
映像に動きがあった。クリスタルの前に、一人の人物が現れる。
「あれは……!」
おっぱいを揉まれながら、ウィッキーがはっとした。
「……エレノア」
俺は小さく呟く。
アンの言った通り、エレノアはマーテリアのところにいた。負傷していたはずだが、今のところそんな様子はない。
映像の中のエレノアは、無表情でじっとマーテリアを見上げている。
『万象の光マーテリア』
エレノアが喋っている。
『わざわざこんなところに連れてくるなんて、どういう風の吹き回し?』
〈異界からの迷い人よ。エンディオーネの神性を奪い、何を欲するのですか?〉
『はあ? 何を言い出すかと思ったら。殺されたいの?』
〈できるならやってみなさい。この結晶の隔たりがある以上、何人たりともわたしを傷つけることはできません。無論、わたしもあなたを傷つけられませんが〉
『鬱陶しいわね。本題に入りなさい』
〈救世主になってほしいのですよ〉
『あの魔王のように? お断りだわ』
エレノアは毅然としている。
〈勘違いをしないでください。わたしは、この穢れた世界を救い、維持したいだけなのです〉
『人をみなごろしにして? あたしがそんなことに協力すると思う?』
〈その人こそが、この世界を穢したのです。あなたになら、理解できるはず〉
『あのねぇ。世界を救うっていうけど、この世界に生きる人達を殺しちゃったら元も子もないでしょうが。世界を救うとか、維持するっていうのは、そこに生きる生命を守るってことなのよ』
〈それこそ人の傲慢です。人は、自身がこの世界の全てであるかのように振る舞っています。これ以上看過できません〉
『だからあたしに手を下せって? バッカじゃないの?』
〈そうですか……拒むなら仕方ありません〉
その瞬間、エレノアの前に純白の人型が出現した。まるで全身タイツを着た人間のような、つるっつるの物体だ。
「エストだ」
俺が言うと、アデライト先生とウィッキーがびっくりした顔になった。
「あれが、エストっすか?」
「とても最高神という容姿ではありませんね」
二人の感想に、アカネが補足を加えた。
「あれはエストそのものではないのじゃ。言うなれば自己保存のための防衛機能の化身じゃよ」
「防衛機能の化身、ですか。あっ!」
アデライト先生が声をあげる。
映像の中では、信じられないことが起こっていた。




