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レゾンデートル

〈考えてもみよ。ただの人間が貴様のような力を持てると思うか? 物事の道理に反している〉


「それは、俺が転生者で特別だから……」


〈バカを言う。貴様が特異な存在である理由は、転生者だからではない。生命の価値は出自や背景では決まらぬ〉


「なにを……」


 その時、アカネの放った気弾がファルトゥールに直撃し、派手に爆発した。


「ロートス! 奴の戯れ言に耳を貸すでない!」


「だが」


「自分が何者かは自分で決めるのじゃ。自らのアイデンティティを神に決められるようでは、運命の解放など夢のまた夢じゃ」


 アカネの言う通りだ。

 ファルトゥールの口先に惑わされるところだったぜ。

 爆発が晴れると、ファルトゥールは変わらずそこに立っていた。


「倒すぜ。今ここで」


〈愚かな〉


 俺は迷わず前に出た。

 凄まじい速度をもってファルトゥールへ接近し、最大威力の斬撃を繰り出す。


「うおおお!」


〈笑止!〉


 俺の剣と、ファルトゥールの大鎌が激突。

 衝撃波が生まれ、臨天の間を揺るがした。それによって、世界に亀裂が生じる。それほどのエネルギーが波及していた。

 俺達は、鍔ぜりあいの形で押し合いになる。


〈ふ。神と人の違いが何だかわかるか?〉


「なに……?」


〈神と人の差は力の強弱ではない。肉体の有無でもなければ、実在の由来でもない〉


「訳の分からないことを!」


〈ならば人と神の明確な差はなにか? それは立ち位置だ〉


 くそ。

 聞くつもりもないのに、どうしてか耳を傾けちまう。


「その口を閉じるのじゃ! ファルトゥール!」


 アカネの拳がファルトゥールの顔面を叩くが、あまり効いていない。唇の端からすこし血が出ただけだった。


〈人であるか、あるいは神であるか。それはその世界における立ち位置によって変わる。すなわち、その世界にあまねく法理の内にあるか、外にあるか〉


 ファルトゥールの言葉は止まらない。


〈法理の内にある人として生まれながら、後にそれを逸脱した貴様は、人から神へと成り変わったのだ。それはまさに、国境を跨げば法律が変わることと同じ〉


「なんだと!」


 動揺しているせいか、俺は鍔ぜりあいに押し負けそうになる。


「ロートス! 耳を貸すなと言っておろう!」


 すかさずアカネがファルトゥールにバックチョークを仕掛けるが、いとも簡単に外されてしまう。

 そして俺も、鍔ぜりあいに負けて弾き飛ばされてしまった。


〈迷い人よ。貴様とてわかっているはずだ。誰よりも先に神となった貴様には〉


「黙れ! わらわはそんなものになった覚えはないのじゃ!」


〈貴様が〈座〉を訪れたがらぬのは、神となった自らを認めたくないからか。あまりにも愚かしい〉


 ファルトゥールは両手を広げる。


〈説法はここまでにしておこう。それにしても思わぬ収穫があった。この世界も、まだまだ捨てたものではない〉


 臨天の間が、ぼやけていく。

 世界が崩壊を始めているのだ。


「何をするつもりだ!」


〈喚くな。ひとまず、この霧は消してやる。嬉しいだろう。望みが叶うのだから〉


「逃げる気か?」


〈見逃がしてやるのだ。我が、貴様らを〉


 次の瞬間。

 ファルトゥールの世界は消滅した。

 そして、俺とアカネは、閃光の中を彷徨い。

 気が付いた時には、亜人連邦の首都アインアッカの中心に立っていた。

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