神話の決戦
「ファルトゥール! お前、一体どういうつもりだ!」
〈え?〉
「え? じゃねぇ! 俺達の街にこんな霧を撒き散らしやがって。なにがしてぇんだ! てめぇはよ!」
〈我は女神。ただ世界の安寧を願うのみ〉
「安寧だと?」
〈我ら三姉妹の長女マーテリアは、瘴気によって世界を浄化しようとしたが、あのやり方は間違いだ。穢れ切った世界を元に戻すことなどできぬ。故に我が濃霧によって、新たな世界を創り出し、上書きすることとしたのだ。亜人の国と、神の山は、その出発点となった。誇りにしてもらいたいものだ〉
ふざけやがって。
「お前のやっていることは、安寧とは正反対だぜ。大バカ野郎が」
俺は剣の柄を握る。
「ロートス。問答は無用じゃ。人と神とでは、価値の基準が根本から違う。説得するより、力で分からせる方が早いじゃろう」
「ああ」
アカネの体が光を帯び、のじゃ美女モードに変化する。
〈神に楯突くとは、相も変わらず愚かなり〉
ファルトゥールが大鎌を振り上げる。
〈その生命。塵も残らず滅し、輪廻の理から外してくれよう〉
不敵な笑み。奴が放つ圧力は、前に会った時とは比べ物にならない。あの時は像だったからな。今回は、モノホンだ。
「ロートス! 剣を抜け!」
「おっしゃあ!」
俺は勢いよく抜剣する。
露わになった剣身に、アカネの掌が触れた。直後、俺の剣が燃えるような朱色の光に包まれる。
「わらわの気を乗せたのじゃ。遠慮なくぶった斬ってやれぃ!」
「任せとけってんだ!」
俺とアカネは同時に床を蹴った。大伽藍の壁や天井を縦横無尽に跳ねながら、それぞれが違う軌道を描いてファルトゥールへと肉薄する。
俺は大上段に振りかぶった剣を、まっすぐに振り下ろした。
それを、鎌の柄で受け止めるファルトゥール。
甲高い金属音と共に、接触点から光の粒子が飛び散った。
〈その剣……疎ましいな〉
「はっ! 厄介だろ! こいつは!」
俺は力をこめ、大鎌を弾き飛ばす。大鎌ごとぶった切ってやるつもりだったが、やはりそこは女神。そう簡単にやらせてはくれないようだ。
だが、体勢を崩すことには成功した。
「がら空きじゃ」
一瞬の隙を見逃さず、アカネがファルトゥールの懐に潜り込む。
「かわいいおへそがのう!」
ファルトゥールの子どもっぽいお腹に、アカネの拳が叩き込まれた。
体をくの字に折ったファルトゥールは、そのまま吹き飛ばされて壁に激突。石造りの壁が砕け散り、粉塵が舞った。
「見事な腹パンだな」
「そうじゃろ」
ぱんぱんと手を払うアカネ。
「これくらいで倒せるとは思っておらんがの」
俺は油断せず、剣を構えた。
案の定、ファルトゥールは粉塵から歩み出てくる。
大してダメージは与えられていないようだった。




