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エレノアの誓い

「うそでしょ……?」


 エレノアの顔に浮かぶのは、驚愕と絶望だ。


 戦えば戦うほど、力を尽くせば尽くすほど、露わになっていく圧倒的な力の差。

 あれは心が折れるだろう。すくなくとも、俺には耐えられないね。


「お強いですわね」


 それはアイリスの本心からの言葉だろう。

 だが今の状況では、ただ煽っているだけにしか聞こえない。


「このっ!」


 エレノアはムキになっていた。最初からか。

 乙女の極光を閃かせ、猪突猛進でアイリスへと飛びかかる。俺が見てもわかる無謀な攻撃だ。やはり、その拳はアイリスに容易く受け止められる。


「ですが、いくら上級魔法でも、そのような付け焼き刃でわたくしは倒せません」


 アイリスはその細い腕からは想像もできないほどの力強さで、エレノアを軽々と投げ飛ばした。


「あっ」


 高く宙に浮いたエレノアを、アイリスは優しく見上げていた。


「これでもわたくしは、長い年月の中、弱肉強食の深い森の中で最後の一つになるまで勝ち続け、生き残ったのです。あなたとは、積み上げてきた量が違うのですよ」


 落下してきたエレノアに、アイリスの蹴りが炸裂する。

 決闘が始まって一発目の攻撃。それはエレノアのどの攻撃よりも有効な打撃となった。


 エレノアは苦痛を声にしながら蹴っ飛ばされ、泥の上の転々とする。


 おい、まじか。


「エレノア……!」


 俺は思わず彼女の名を口にした。自分だけに聞こえる小声のつもりだったが、サラにはしっかりと聞こえていたらしい。焦ったような顔で俺を見上げてくる。


「ご主人様、止めに入りますか……?」


 どうする。そんなことをしたら目立つし、エレノアに俺がここにいることがばれてしまう。


 いや、そんなことを言っている場合か。


 このままじゃ、エレノアがひどい目にあってしまう。それも、他でもない俺の従者の手によってだ。


 そろそろやめるんだ。もう十分だろう。

 そんな俺の想いが届いたのか、ふとアイリスが俺を一瞥した。


「そろそろ降参されてはいかがですか? これ以上は傷を増やすだけです」


 そんなアイリスの提案を、エレノアは一蹴する。


「馬鹿言わないでよ……」


 泥に手をついて立ち上がり、歯を食いしばって前を向く。


「降参なんてするもんですか。私はこんなところで、負けるわけにはいかないのよ!」


 噛みつくように声を張り上げるエレノア。


 アイリスは心底不思議そうに首を傾げる。


「どうしてそこまでわたくしにこだわるのですか? 今日明日で覆せるような差でないことはおわかりでしょう?」


「気に入らない言い方するわね、まったく」


 顔についた泥を拭い、エレノアが大きく息を吐いた。


「待たせてる人がいるのよ」


 彼女の周りに、再び無数の火が浮かび上がる。


 性懲りもなくフレイムボルト・レインストームを撃つつもりか? それはアイリスには通用しないぞ。


「一分でも一秒でも早く一人前になって、あいつを迎えに行かなくちゃならないのよ!」


 灯った火が、更に増えていく。怒涛の勢いで空間を埋め尽くし、エレノアの周囲を彩った。


「フレイムボルト――」


 白く輝く手が、振り上げられる。


「――テンペスト!」


 火の弾丸は一つの激しい火炎の奔流となって、アイリスへと迸った。

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