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情報源

 コーネリアが思わず顔を背ける。


「おい、起きろ。今からそんな調子じゃ、後がもたないぞ」


 両目から涙を、口の端からよだれを、それぞれ流して倒れたアンを、強制的に目覚めさせる。


「はっ……!」


 忘れていた呼吸を思い出たようだ。


「なにを、したのです……!」


「質問する前に答えることがあるだろ?」


「だから! 聖女の居場所など知らないと――」


 どこまでもしらばっくれるつもりか?

 それとも本当に知らないのか?

 それを確かめるために、俺はアンの下腹部に手を添える。


「ううっ……!」


 華奢でありつつも柔らかいお腹を、軽く押してやった。


「~~~~~~っっっっっっっ!!!!」


 声にならない叫びをあげて、アンは再び気絶してしまった。

 そして、股間のあたりが一気に濡れていく。あろうことか失禁していた。


「だらしのない奴だ」


 今度は白目を剥いて全身を痙攣させている。


「ロートスっ」


 コーネリアの声。


「それ以上は、死んでしまうのではないですか?」


「それはないさ」


 拷問で殺してしまうような奴は三流以下だ。何の為に拷問してるんだって話だもんな。

 情報を聞き出すために、色々と頭を使う必要がある。ただ痛めつければいいってわけでもない。

 仰向けに倒れたアンの頬をぱちんと叩くと、再び意識を取り戻した。

 荒げた呼吸でぐったりとしている。その瞳は虚ろであり、意識はほとんど曖昧のようだ。


「なん、なんですか……これは……」


「喋る気になったか?」


「……うう」


 なんとか上体を起こし、床に手をついて体を支えるアン。


「本当に知らないんです……」


「まだ足りないみたいだな」


「待ってください! 心当たりはあります」


「言ってみろ」


「瘴気を纏ったドラゴンが連れ去ったというなら、考えられるのは神の山くらいしかありません」


「なに?」


「あーしの他に瘴気を扱えるのは、あなたと、女神マーテリア以外にありませんから」


「だが、マーテリアの神性はお前が譲り受けたんだろ? 奴にはもう力は残っていないはずじゃ」


「あーしが譲り受けたのは……ほんの一部です」


「え?」


「マーテリアの持つ力の一割にも満たないでしょう」


 まじかよ。

 あれほどの力で一割ないだと? やばいやつやん。


「エレノアを攫って、どうするつもりなんだ」


「明らかに、神性を付与して第二の魔王にするつもりでしょう」


「なんだって……! そうか、あの時すでにエレノアに目星をつけていたってわけか」


「……彼女もまた異世界からの転生者。元より彼女を真の魔王にするつもりだったのかもしれません。所詮、あーしは仮初の魔王。繋ぎの存在だったのです」


 アンは絶望の淵にいた。


「ほら。もういいでしょう? 早くあーしを、殺してください」


 俺に負けてすべてを失い、拠り所としていたマーテリアにも見捨てられたんだ。それも納得だ。

 だがな。


「お前は神代からずっと生きてきたんだろ。今さら簡単に死ぬつもりか?」


「生まれてこの方、あーしはずっと女神を信じてきました。それは今でも変わりません。女神があーしを見捨てたのなら、それがあーしの運命なのです」 


「ぬかせ」


 俺は思わず鼻を鳴らした。


「神の決めた運命なんかクソくらえだ。俺はな、アン。そのクソッたれな運命を変えるために戦ってんだ。人間の手に、人間の未来を取り戻すんだよ」


「いかにも、ノームらしい考え方です」


「なに?」


「アルバレスの御子。あなたは言いましたね。いかに古きより生き永らえようと、未だ死んでいない以上はあーしとて今を生きる者に変わりはないと」


「言ったような気がする」


 二年前に神の山で会った時のことか。


「あの言葉を聞いて、あーしは決心したのです。魔王として、女神の望む世界をこの手で実現しようと」


 うお。マジか。

 それってつまり、俺が魔王を生み出したってことやん。

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