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残酷な一面

 その日の夜。


 俺はグランオーリスの王宮にある地下牢を訪れていた。

 先導してくれるのは、カンテラを持ったコーネリアだ。


「結構下りたな」


「ええ。ここの階段は千段ありますから」


「千段も? 戻る時が大変だな」


 千段もの段差を降りた先、ひんやりとした空間には、頼りない魔法の照明だけが光っている。

 たった一つだけある地下牢は、堅牢な鉄格子と魔法によって厳重に閉ざされていた。

 その中にいるのは、拘束具をつけた魔王アンヘル・カイドだ。


「よう、アン。気分はどうだ」


 アンは地べたに座り込んだまま、虚ろな目で俺を見上げる。


「……アルバレスの御子」


 アンがつけている拘束具は、俺が〈妙なる祈り〉によって作り出した特別製だ。あれを着けている以上、アンはただの平均的な二十代女性レベルの力しか出せない。もちろん魔法も権能も使えない。


「どうしてあーしを殺さないのです」


「慌てるな。まずは聞きたいことがある」


 目線を合わせる為、鉄格子の前に腰を下ろす。


「エレノアはどこだ?」


「聖女ですか。あーしが知るわけないでしょう」


「とぼけるな。お前のレーザービームで大怪我した後、瘴気を纏ったドラゴンがエレノアを連れ去ったんだ。お前以外に誰がやるんだそんなこと」


「知らないものは知りません」


「そうか。なら、力づくでも吐いてもらうしかないな」


 そう言っても、アンは顔色一つ変えない。

 むしろコーネリアの方がびっくりしていた。


「拷問をするのですか」


「そうだ。喋らないってんなら仕方ないだろ」


「しかし……いえ、わかりました」


「苦手か? こういうのは」


「好きな者などいないでしょう……」


「そうでもない」


 俺は立ち上がると、片手で鉄格子をひん曲げ、牢獄の中に入った。

 アンはすべてを諦めたような目で俯いている。


「好きにすればよろしい。どうせあーしにはもう、存在する価値も、理由もない」


「そうかよ」


 俺はアンに手をかざす。指先から放たれた光が、粒子となってアンに降り注いだ。


「これは……」


 イメージを具現化する〈妙なる祈り〉を用いて、アンの肉体に変化をもたらす。


「うっ」


 次の瞬間、アンの顔色が変わった。


「これは……っな、なにをっ……」


 急に呼吸が乱れ、苦しそうに唇を引き結ぶ。

 俺はそんなアンの目の前に胡坐をかいた。


「さぁ、エレノアの居場所を教えてもらおうか」


「ですからっ。あーしは知らないと――」


 俺の人指し指が、アンの肩を突いた。


「ああああああああああああああああああっっっっ――」


 物凄い悲鳴をあげて、アンは体を弓なりにのけ反らせた。

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