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罪の意識

「そんな……! そんなことが……! 我が帝国が誇る聖ファナティック教会の神学者達が、数百年かけて見出せずにいるものなのですよ! 魔法学園の教授のあなたが、どうして」


「それは後ほどご説明いたしますから、今はどうかお座りください」


 先生に指摘され、ヴィクトリアはやっと自分が立ち上がっていることに気が付いたようだ。


「これは失礼」


 気まずそうに咳払いをし、ゆっくり着座する。

 そしてまたもやネルランダーが挙手した。


「根源粒子とは? 浅学な俺にもわかるように説明してくれないか?」


「根源粒子は、森羅万象の元となるエネルギーです。純粋なエネルギーでありながら、物質としての性質も持ち合わせ、それだけでなくあらゆる性質、可能性を内包する微粒子」


「それを利用すれば『千里眼』の制約を受けないというわけか」


「ご明察です」


「それによってあなたは、聖域の記録を目にした。なるほど、まぁ今はそれで納得しておこうか」


「ありがとうございます」


「じゃあ、もう一つの質問だ」


 ネルランダーは人指し指をぴんと立てて、


「恋人はいるのかい?」


 イケオジ的なスマイルでウインクした。

 あ、これは許されないな。俺の女に色目を使うなんて。

 俺は思わず腰を上げそうになる。


「ふふ。実は私、婚約していまして」


 頬に手を当ててはにかみながらいう先生を目にして、俺は冷静さを取り戻す。


「そろそろ成婚式かなぁ、なんて。式場はどこにしようかな、とか。どんなドレスにしようかな、とか。研究以外では、そんなことばかり考えています」


 聞いてるこっちが恥ずかしいんだけど。


「ああ。そりゃそうだ。先生のような素敵で聡明な女性、まともな男なら放っておくはずない。お相手はどんな方なんだい?」


「それはもう、言葉を尽くしても尽くせないほどの大英雄ですわ。皆様にもご紹介する機会があるでしょう」


「ああ。そいつは楽しみだ」


 ネルランダーは愉快そうに笑う。

 その時には、会場の空気はどこか拍子抜けしていた。妙な緊迫感はどこかにいってしまったようだ。


 なるほど。これがネルランダーの狙いだったのか。確かにさっきまでの雰囲気は悪かった。ムードメーカーの役割を果たしたってことだろう。

 ニクい男だ。ネルランダー侮りがたし。


 惚気ていたアデライト先生が我に返り、神妙な咳払いが響く。


「ではお話を続けましょう。続いては、スキルの真実についてです」


 お、いよいよか。核心に近づいてきたな。


「ご存じの通り、スキルは最高神エストによって与えられるギフト。先程の話を踏まえるならば、新人類であるノームが十三歳の誕生日に得られる加護と言うことになります。ではそもそもスキルとは何なのか。結論を申し上げれば、スキルとは人が背負う運命を能力化したものです」


 多くの首脳達は首を傾げている。


「人の運命は神によって決められるとされていますが、真実は違います。人の運命は人が定めるもの。エストはそれを補強しているだけ。しかし多くの人々は、スキルによって人生が決まるという事実を見て、あたかも神が運命を定めているかのように錯覚しているのです。それによって我々が本来持っているはずの運命を変える力が封じられているとも知らず」


 リュウケンがわなわなと震えているのが見えた。おー、頑張って我慢してる。


「ここまで言えばお分かりかと思いますが、マーテリアから生み出されたエストには、ノームの運命を固定化し、本来の力を封じる力があるのです。スキルはそのはたらきの、顕れ方の一つにすぎません」


「顕れ方の一つに過ぎないとは、どういうことですか?」


 ヴィクトリアが興味深げに質問する。


「この世界にスキルが生じたのが数百年前。つまり数百年前を境に、ノームの運命を縛る方法が変わったのです。そしてその変化は、人間によってもたらされた」


「人間によって……?」


「ヘッケラー機関」


 アデライト先生は、沈痛な表情でその名を口にした。

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