政治したい
「そう言うからには、セレン王女殿下には何かご提案があるということかな?」
ネルランダーが飄々として言う。
「ある」
「ぜひお聞かせ願いたい」
「復興」
セレンが短く言うと、会場がすこしざわついた。
「復興だと?」
「そんな当たり前のことを」
「わざわざこのような場でいうことか?」
ざわざわしているなぁ。
「より厳密に言えば、全人類が手を取り合い、相互利益に徹することを前提とした復興」
「相互利益に徹する? ふぅんなるほどね。つまり、他の国を陥れたり、足を引っ張ったり、そういうことはご法度ということか」
「ネルランダー首相の仰る通り。でもそれだけじゃない。世界におけるすべての人種差別撤廃を、各国に約束してもらう」
「人種差別の撤廃……アルか?」
リュウケンが怪訝な声を出す。
「そう。亜人を含め、世に蔓延るすべての差別をなくすために最大の努力をする。それが世界の復興に繋がる。最善の道」
会場のざわつきがもう一段階大きくなった。
「つまり……人間と亜人とが完全に平等である世界を築く、ということアルか」
「その通り」
「ふざけるなアルッッッ!」
リュウケンが机を思い切り叩いた。
「そんなことが許されるはずないアル! 亜人はスキルを持たぬ下等生物。最高神エストより授かったスキルを持つ我ら人間こそ奴らの上に立つ存在アル! 人間と亜人が平等などと……神への冒涜に他ならないアルよ!」
そうだそうだと野次が飛び交った。
かなりうるさくなってきた。
「静粛に」
しかし、そこで会場内の空気を一変させる声が響いた。
清流のように透き通っており、それでいて稲妻のような威厳のある女の声だった。
一瞬にして静まりかえる場内。
「セレン王女殿下。発言を許可頂けますか?」
立ち上がったのは、黄金の装飾をふんだんにあしらった白い法衣の女。二十代後半くらいか。すみれ色の長い髪を揺らす、かなりの美人だった。
「どうぞ。ヴィクトリア皇帝陛下」
セレンが言うと、女は一礼して場内を見渡した。
「私は、ヴリキャス帝国の皇帝ヴィクトリア二世です。ご存じでない方はおられませんね?」
正直、俺は存じ上げなかった。でもわざわざそんなことは言わない。
あれが帝国の皇帝。つーか女帝だったのかよ。
確かに、国家の代表達であれば、世界随一の国家であるヴリキャス帝国の皇帝を知らないわけはないだろう。
「ただいまセレン王女殿下が謳われた、全人類の平等について。わがヴリキャス帝国は全面的な賛同を示します」
「なんだとアル! 意味わからんアル!」
リュウケンが再び机を叩いた。
「グランオーリスの主張は神への冒涜であるアル! 他でもない、神の山を有するグランオーリスともあろう国の王女が! ふざけるのも大概にするアル!」
もう一つの大帝国であるグレートセントラルは、対立する意志を表示していた。




