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凱歌

 〈妙なる祈り〉の力を全開にし、手刀で魔王に対抗する。

 光を帯びた俺の両手が、迫りくる斬撃をすべて弾き返した。


「厄介な……! その力、やはり捨て置けません!」


「こっちのセリフなんだよなぁっ!」


 漆黒の刀と、光る手刀。

 リーチでは向こうが勝っているが、手数ではこっちが勝っている。

 実力は完全に拮抗していた。

 激戦の中で、一際強烈な打ち合いがあった。それを合図として、俺と魔王は示し合わせたようにお互い距離を取る。


 静寂。

 周囲の兵士達は俺達の戦いを見て、唖然としていた。


「な、なんだ。あれは。何が起こった?」


「わからねぇ! 何も見えなかった」


「黒いとか、光ってるとか、それくらいしか……理解できなかったぜ……!」


「魔王はわかる……まだ、魔王は分かるけどよ……けど、なんだよあいつ……本当に、人間かよ……!」


 外野が何か言っているが、耳には入ってきても理解できるほどの余裕はない。俺は今、目の前の魔王に全集中力を注いでいる。

 とりあえず深呼吸。


「アン。お前のその力……どういうことだ。マーテリアの神性を失っても、瘴気が使えるのか」


「あーしは女神の加護を受けている。故に、あーしの力は無限に変化する。女神の思し召しによって」


 なるほどな。つまり、神族の権能か。


「神性を失っても瘴気を使えるなんてな。古代人が神族と呼ばれるわけだ」


「ええそうです。あーしこそ女神に愛された、真の人間なのです!」


 瞬きする間もなく距離を詰めてきた魔王が、神速の斬撃を繰り出す。

 俺はそのすべてを捌き、有るか無いか分からないくらいの隙をついて、反撃を打った。

 手刀による打突。

 その一撃は魔王の首筋を掠めるに止まったが、勢いを殺すには十分だった。


「クッ……!」


 魔王は咄嗟に距離を取ろうとするが、それは許さない。

 俺は魔王を追うように前進し、肉薄したままの距離を保った。


「守ったら駄目だぜ。戦いってのはよ」


 俺は渾身の頭突きを魔王にお見舞いする。


「最後まで攻めて攻めて攻め抜いた奴が勝つって、相場は決まってんだ!」


 魔王が剣を振ろうとするが、今更だ。

 前進する俺の方が、何倍も速いのだから。


「うぉおおおッ!」


 渾身の手刀振り下ろしが、魔王の額を打ち抜いた。

 白い輝きが閃く。

 あまりの威力に、魔王は白目を剥いて気を失った。そして、動いていた勢いのまま転がってそのまま動かなくなる。


 俺はブーツの底で大地を噛み、砂煙を上げながらブレーキをかけ、立ち止まった。

 そして、勝利を誇示するように天高く右手を掲げる。


「魔王アンヘル・カイドは、このロートス・アルバレスが討ち取った!」


 ギリギリの戦いでテンションが上がっていたせいか、勇ましい声をあげてしまう。


「あれ?」


 俺としては、周囲の兵士が呼応して鬨の声をあげるかと思ったが、予想に反して戦場はやけに静かだった。

 辺りを見回してみると、兵士達が遠巻きに俺を見ているだけ。

 その顔は、名状しがたい感情を露わにしていた。


「……魔王を、倒した」


「ああ。たった一人でな……」


 まさか、あれか。

 俺の強さに感動して、言葉を失っているのか。

 わはは。まぁ今の俺は俺史上最強だからな。みんなが感動するのも仕方ない。

 そう思ってドヤ顔を浮かべていたのだが。


「友よ」


 ヒーモが肩を叩いてくる。


「キミにとって、これからが一番つらい戦いになるかもしれないな」


「なに? どういうことだ。魔王は倒しただろ」


「だからこそ、さ」


 よくわからん。

 ま、一件落着というわけだ。


 魔王を倒して、世界は救われた。

 そうだろ?

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