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旅立ち、そして旅立ち

 一ヵ月後。

 村を挙げて行われたエレノアの出発式の後、彼女はいよいよ村を出ようとしていた。


「それじゃあ、いってくるね。ロートス」


「ああ。気をつけてな」


 村の外れにある大岩の傍ら、エレノアは無理矢理作った笑みで目尻に涙を浮かべていた。


「泣くなよ。めでたい日なんだ」


「うん」


「お前なら魔法学園で立派な魔導士になれるさ。なんたって天下の『大魔導士』様だもんな」


「もう。茶化さないでよ」


 俺は愛想笑いを漏らして、エレノアの隣に立つマホさんに目を向けた。


「マホさんも気をつけて。エレノアを頼みます」


「ああ。わかってる。お前も達者でな。ロートス」


 マホさんは俺達より三才年上のお姉さんだ。茶色いポニーテールを結った彼女は、村でエレノアに次ぐ美人である。

 彼女はエレノアの従者として、魔法学園に同行することになったのだ。


 というのも、魔法学園に入学する生徒は誰しもが一人以上の従者を抱えるらしい。俺も今日知ったことだ。魔法学園に通うのは貴族や商家のお坊ちゃまお嬢様達がほとんどで、従者がいないと笑い物にされるようだ。

 そこで選ばれたのが、歳も近く優秀なスキルを持つマホさんだった。


「お前が『無職』じゃなけりゃ、間違いなく従者だっただろうにな。運命って野郎はいつも皮肉なもんだ」


「ですね」


「まぁ、しゃーねぇ。クソスキルを授かっちまったお前が悪い。精々人様の機嫌を損ねないように慎ましく生きてけや」


「そうしますよ。言われるまでもなくね」


 乱暴な言葉遣いだが、これでもマホさんは俺のことを気にかけてくれている方だ。

 先程の出発式では、どさくさに紛れて村の人々から何発も腹を殴られた。エレノアとマホさんは気付いていなかったようだけど。


「じゃあな、エレノア。応援してるぜ」


「うん。いってきます」


 こうしてエレノアは、魔法学園へと旅立っていった。


 案外あっさりした別れだったな。

 いいさ。俺の人生なんて、こんなもんだろう。

 どうせ入学したら会うかもしれないんだ。別に惜しむようなことでもないしな。


「さて、とりあえず時間を潰すか」


 エレノアが村を出てからは最低でも数時間は間隔を空けないといけない。うっかり追いついてしまわないようにな。


 俺はスキルを発動する。

 クソスキル『タイムルーザー』だ。


 このスキルは、体感時間を短くするという暇つぶしにしか使えない感覚操作系のスキルだ。詳しく説明するならば、一時間を一秒に感じられるという能力。周囲の時間の流れが速くなったように感じる。


 『タイムルーザー』とは真逆の、体感時間を長くする『クロックアップ』というスキルがあるらしい。それは周りの時間の流れが遅くなるというチート並みのスキルだ。


 ほんと、なんでそっちじゃなかったんだろう。

 愚痴っても仕方ない。


 俺は『タイムルーザー』を使って一秒で数時間を経過させた。

 明るかった空が、一瞬で暗くなる。


 夜の訪れだ。


「さぁ。『無職』の旅立ちだな」


 明るい未来はない。

 けど行くしかないなら、頑張ってやってみるさ。

 幸い、両親が用意してくれた資金は潤沢だった。

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[気になる点]  「明るかった空が、一瞬で暗くなる。」 街灯なんてない世界、夜って月明かり位しかないでしょう。そんな夜に歩いたことがない道を一人で歩いて行けると言うことは、ある程度、道が整備されてい…
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