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不変なる目標

「これは……」


 間違いない。

 エレノアの魔法だ。

 聖女が行使するに相応しい神聖な感じの眩い光。その広がりが、空を満たす瘴気にいくつかの大穴を空けた。


『聞きなさい。グレートセントラルのつわもの達よ』


 エレノアの声が、戦場にあまねく。


『数多の魔物を率いた魔王と、グランオーリスの王とが同じ時に我らの陣に攻め入ってきた。彼奴等が協力関係にあることは疑いようもありません』


 その声は、勇壮でありながら美しく、どこか高揚と安心をもたらすものだった。


『しかし、恐れることはありません。瘴気を打ち払うため、そして魔王を倒すために私がいるのです。敵は強大なれども、正義はこちらにあり』


 グレートセントラルの兵士達の士気が、みるみるうちに高まっていく。


『ここが正念場です。世界を救い故郷を守るため、今こそ邪悪なる魔王とその眷属を滅する。女神ファルトゥールの加護の下、このエレノアと共に戦ってください』


 そしてエレノアは、もう一度フラーシュ・セイフを放ち、さらに多くのモンスターを消滅させ、瘴気を払い飛ばす。

 その直後、地鳴りのような喚声が湧きあがった。


「うおおおおおおお! 聖女様の仰る通りだ!」


「そうだな! 俺は別に女神を信仰しちゃいねぇけど、聖女様の力は信用してるんだ! 共に戦うぜ!」


「魔王を倒せば我らは英雄となる! グレートセントラルの精鋭が、栄光の歴史に名を残すのだ!」


 崩壊しかけていた軍が、一気にまとまりを取り戻す。

 聖女の威厳や存在感、実力と美貌が、男達の闘争心と使命感を触発したんだろう。


「しかし、ファルトゥールの加護ねぇ……お前の神性はエンディオーネのものだろうに」


 敵の名を騙るとは、なかなか滑稽なもんだ。

 とはいえ、エレノアとテンフが魔王とその軍勢を抑えてくれるなら、俺も自由に動けるだろう。

 この混乱に乗じて、グランオーリス勢と合流しよう。瘴気を纏ったモンスター達は、グランオーリスの軍にも襲いかかるはずだからな。俺が守ってやらないと。

 そう考えた俺がそそくさと移動しようとした、その時だった。


「ノイエ様!」


 テンフに武器を渡した若い兵士が、俺に跪く。


「我らを率い、迫るグランオーリス軍を迎え撃ってください!」


「え?」


「将軍は魔王との一騎討ちに臨まれました。故に我らを指揮できるのはノイエ殿を除いて他にありません!」


「いやいや、テンフ以外にも将軍はいるだろ?」


「それが……先程の攻撃で、戦に長けた将軍は軒並み……」


「まじかよ。指揮系統が乱れたんじゃ勝ち目はないぞ。撤退だ撤退」


「それはなりません。そもそも士気が最高潮に達したこのタイミングで撤退など不可能です。いかにして敵を打ち破るかをお考え下さい」


「いやいや。よそ者の俺があんたらを指揮できるかよ。誰も納得しないって」


「しかし……それでは指揮官不在になってしまいます。そんな状態で戦など……このままでは我らはまともに戦えないまま死ぬ」


 絶望に染まっていく兵士の顔。

 思わず溜息が漏れる。俺だって、グレートセントラルの兵士ならいくら死んでもかまわない、なんて思っているわけじゃない。いくら戦争といっても人死にはない方がいいに決まってる。グランオーリスの兵士達に一方的な虐殺をさせたくもない。

 殺すのも殺されるのも、百害あって一利なしだ。


「わかったわかった。グランオーリスの方は俺一人でなんとかする。お前達は自分の身を守ることを考えろ」


「お一人で? 危険では?」


「心配ねぇ。じゃ」


 俺は今度こそ、グランオーリスの軍へと歩を進める。

 すでに計画は狂いまくっちまってるが、目的は変わらない。俺は戦争を止めるために動くだけだ。

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