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俺の名は。

「笑い事ではないアル。聞くところによれば、そのフルツ王を仕留めた者の正体が明らかになっていないという話アル。貴国の情報力は、その程度アルか!」


「え~。そんなこと言われても~。あの戦いの目撃者はほぼいないんだよ~。キーウィを含め、フルツ族の兵士達はみんな捕まっちゃったし~」


「記録係がいるであろうアル!」


「それも捕まっちゃったらしいよ~」


「オレはこう聞いたぜ。フルツ族の王をタイマンでボコったのは、瘴気を身に纏った人間の青年だって。オレ達が知ってることを、まさかジェルドの女王ちゃんが知らないなんてことはないよな?」


「ま~ね~。余だってそれくらいは分かってるよ~。でも、それが誰かまでは分かんないじゃん~。瘴気を操る人間なんて、魔人以外に聞いたことないよ~」


「その魔人がグランオーリスと手を組んだという可能性はないアルか」


「あったとしても、別人だろうね~。そもそも魔人は人間じゃないし~。異形って感じだからね~」


 ま、俺のことなんですけどね。


「ロートス・アルバレス」


 急に名前を呼ばれ、俺は思わず反応しそうになった。

 あぶねぇ~。びっくりした。口から心臓が出るかと思ったぜ。

 なぜここまで驚いたかと言うと、他でもない。俺の名を呼んだのがエレノアだったからだ。


「ロートス・アルバレス? 誰アルか? それは」


「今あなた方が話題にしておられるでしょう。瘴気を自在に操り、単身でフルツ族を打倒した男」


「ロートス・アルバレス? ふむ? どこかで聞いたことがあるような……?」


 ネルランダーは両手の人差し指で額を押さえる。


「首相。例の男です。最近、亜人連邦の王を名乗った……」


「ああ。彼か」


 え、ちょっと待ってちょっと待って。

 俺が亜人連邦の王だって? いや確かに前向きに検討するとは言ったが、決定したわけじゃないぞ。

 どういうことだ。もしかしてサラとルーチェがすでに諸外国に公表したってことか?

 うわーまじか。やば。


「その情報は確かなのかい? 聖女様」


「間違いありません。先日、我が帝国のタシターン領にて、主都がブラッキーの大軍に襲撃されるという大事件が起こりました。私はそこで、ロートス・アルバレスと一戦交えたのです」


「なんだと……アル!」


 再び、リュウケンが机を叩いた。


「では瘴気を操ってモンスターを狂わせたのは、グランオーリスではなく亜人どもアルか!」


「最初からグランオーリスとグルだった、という可能性もあるね」


 なんだか、雲行きが怪しくなってきたな。

 俺の名前が出たことで、亜人連邦に矛先が向いた。もちろんこの事態はルーチェも想定していただろうが、俺の気持ち的にはハラハラしている。


「ジェルドの女王! 貴様はどう思うアルか! 黙ってないで何か意見を申せアル!」


 俺は目の前で黙り込むアルドリーゼの後頭部を見た。露出した肩ごしに、アナベルの可愛い瞳がこちらを見ていた。

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