できる子だった
「寝言は寝て言えよヒーモ。どうして俺のアイリスがお前の代理人にならなくちゃならんのだ。ふざけるのも大概にしろ」
俺はローテーブルに足を乗せ、ふんぞり返って言ってやった。
正直、貴族に対する平民の態度ではない。これがこの学園の外であれば、重罪は免れないだろう。しかしそんなことはどうでもいい。
ヒーモも俺の怒りを感じ取ったのだろう。細い顎を押さえて眉を顰めた。
「まぁ聞いてくれよ。一応吾輩なりの考えがある」
「言ってみろ」
どうせロクな考えじゃないんだろう。
俺は後ろのアイリスをちらりと見る。彼女は相変わらずの優しげな微笑みだ。これはある意味ポーカーフェイスなんだろうな。
アイリスは俺と目を合わせると、大丈夫だと言わんばかりに頷いた。
「吾輩とて他人の従者を代理人に立てるのは筋の通っていない話だと思う。それは重々承知の上だ。だが明日の決闘に負けることは許されないんだ。これはもう吾輩と奴だけの問題ではない。ダーメンズ家とガウマン家の面子をかけた戦いなんだ」
「だったら尚更ダメだろが。他人の従者を代理人に立てて、仮に勝ったとしても後ろ指さされるだけなんじゃないか」
「ああそうだ。けれどそれは、彼女が人間だったらの話だろう」
ピクリと、俺の眉が勝手に動いた。
サラも密かに体を強張らせたようだ。
「気付いておいででしたか」
アイリスが落ち着いた声色を口にする。
「サラちゃんに指摘されてからこちら、極力悟られないように魔力の質も限りなく人間に近くしていたのですが」
「そうだね。その擬態の精度には恐れ入るよ。この学園広しと言えども、見抜けるのは吾輩くらいだろうね」
「おいヒーモ、どういうことだ」
俺は足を床に着け身を乗り出す。アイリスの正体がばれるのはなんとなく都合が悪い気がする。そんなことないのかもしれないが、これは俺の予知めいた直感だ。
「言ってなかったな。吾輩のスキルは『エビルドア・ファインダー』。職業は『モンスターテイマー』だ」
「テイム系のスキルか……」
「ああそうだ。それも最上級のね。だからこそ見抜くことができた。そこの女性がスライムであり、高度な擬態能力を持っていると」
なるほど。だんだん話が読めてきた。
「ヒーモお前。アイリスに、自分の従者の擬態をさせる気だな?」
俺は壁際に並ぶメイド達を眺める。様々な形やサイズのおっぱいが並ぶ様はまさに荘厳である。
「その通り。さすが鋭いね、ロートスは」
「うるせぇ」
回りくどいことをする奴だ。
確かにアイリスならイキールに後れを取ることもないだろう。実際一度戦っているわけだし、あの時も楽勝だったもんな。
だが。
「お前にはアカネがいるだろうが。そいつを出せよ代理人に」
「駄目だ駄目だ。このクソガキは役に立たない。なんの力もないチビッ子じゃあないか」
くそが。
モンスターを見抜いたのはすごいかもしれないが、人を見る目は節穴だなこいつは。
「わたくしはかまいませんわ」
その時、アイリスがはっきりと言い切った。
「おいアイリス」
「よいのですマスター」
そして彼女はヒーモに目を向け、にっこりと微笑んだ。
「ですが条件があります」
「聞こう」
「これから学園に通う三年の間。マスターの住居をご用意してください。この方にふさわしい住居を」
「ふむ」
少しだけ考える素振りを見せて、ヒーモはにやりと笑った。
「いいだろう。キミが勝ったあかつきには、彼に見合う家を用意しよう。もちろんこの王都にだ。加えて使用人も支度させよう。一流の家には、それなりの使用人が必要だ」
「感謝いたします。ミスター・ダーメンズ」
なにやら勝手に話が進んだが、まあいい。
でかした。アイリス。




