面倒
「貴様見ない顔だな。どこの配属だ? 会場付近の警備は我々ジェルドの影が担う。一般の兵士は王宮の敷地内を巡回せよと、命令が言っているはずだ」
俺は戸惑うふりをする。
たしかそんな話をソロモンから聞いたような気がする。だから、会場内へ入る際は細心の注意を払えと言われていた。俺としたことがちょっと焦りすぎたようだ。
「貴様はあてがわれた定点へ戻れ。配属意外の場所にいれば、要らぬ誤解を招くぞ」
さて、どうしたものか。ここで目をつけられてしまっては面倒だ。ここは一旦、大人しく去るべきか。
どうしたものかと、俺はアルドリーゼの方を一瞥する。
すると、アルドリーゼの腕に抱かれるアナベルと、完全に目が合ってしまった。寝ぼけ眼から一転、ぱちくりとした目をこちらに向け、アナベルはぱぁっと表情を輝かせた。
「あー!」
そして、その小さな指で俺を指した。
やばいぞ。俺は直感した。あの子は姿を変えた俺を見抜いたのではないだろうか。パパなんて呼ばれた日には、変装がバレてしまう。
なので俺はアイコンタクトによって、アナベルに今はパパと呼ばないでくれー、と伝えることを試みた。
それを受け、ぱちぱちと瞬きするアナベル。
「ん~? どちたのかな~? アナちゃ~ん」
急に声を張ったアナベルに、アルドリーゼが反応していた。アナベルの視線の先を追い、女王は俺を見る。
「あの子達がどうかしたの~?」
「んー」
尋ねられたアナベルは、かわいらしく思案するような仕草を見せてから、嬉しそうな笑顔になった。
「ごえー! ごえー!」
俺を指さして変わった鳴き声をあげている。
「あの子を護衛にしたいの~?」
「はーい!」
ああ、ごえーって護衛のことね。難しい言葉を知ってるんだなアナベルは。かしこい。
しかし、護衛とはどういうことだ。
「そっかそっか~」
アルドリーゼはのんびりとした歩みで、巨大なおっぱいを揺らしながら(ここ重要)こちらに近づいてくる。
俺の隣にいる女兵士が姿勢を正したので、俺もそれに倣う。
「今の話、聞いてたね~?」
「は。しかし女王様。会談へ同行できる護衛は一人と定められているはず。その任は我ら影の長が務めることになっています。これ以上人数を増やすことは、他国の不信を招きます」
「そだね~。だから、護衛をその子と交代してもらおうかと思うんだけど、どうかな~」
「それは。しかし……」
「アナちゃんは特別なんだよ~。この子が言うことには何かしら大きな意味があるんだ~。先見の明っていうかさ~。それに従ってきたからこそ、余たちジェルド族がマッサ・ニャラブの覇権を握ることが出来たんだし~」
アルドリーゼはにこにこと圧をかけている。
「でも、キミ達の気持ちもわかるよ~。ジェルドの影ってことに誇りを持ってくれてるからね~。だから、ひとつ力試しをしてみたら? この子が護衛にふさわしいかどうか、影のみんなで確かめてみたらいいじゃ~ん」
「……わかりました」
まじかよ。
アルドリーゼが俺を見る。
「キミも、それでいいかな~?」
俺は頷く。喋るとボロがでそうだから、あまり喋るなとソロモンに言われているのだ。
「じゃあ、きまり~」
ということで、俺はジェルドの影の長と力試しをするべく、王宮内にある闘技場へと行く運びとなった。




