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マジでダーメンズ

「よく来てくれたね同志ロートス。吾輩は待ちくたびれたよ」


 豪華な広い部屋。その奥の革張りのソファに、尊大に脚を組むヒーモがいた。


「わぁ……」


 サラが感嘆の声を漏らす。


 それもわかる。この部屋はすごい豪奢なのだから。いちいち説明するのも面倒だから割愛するが、とにかくザ・貴族といわんばかりの部屋だった。


 だが俺にとっては高価そうな調度品とか、天井のシャンデリアとかはどうでもいい。ヒーモが手にしているワインらしき飲み物が注がれたグラスも興味がない。


 俺が目を惹かれたのはヒーモの背後に侍る十数人のメイド達である。大体十代半ばほどの女性達がずらりと立ち並んでいた。

 メイドと言えばマホさんを思い出すが、彼女はメイド服を着ているだけで別にメイドというわけではない。なんであの人メイド服着てるんだろう?


 それはともかく。俺はヒーモにイラついていた。


「てめぇ……!」


 こんなにたくさんのメイドを侍らすなんてけしからん奴だ。羨ましいにもほどがある。ふざけやがって。許さんぞ貴様。


「どうした怖い顔をして。ほら、こっちに来て座ったらどうだい?」


「ああ、そうさせてもらうぜ。言われるまでもなくな!」


 俺は肩をいからせて部屋に立ち入ると、ヒーモの対面のソファに腰を下ろした。


「キミもどうかな?」


 ヒーモはグラスを傾ける。


「いらん」


 今の俺は十三歳だからな。この国ではもう成人だが、なんとなく抵抗がある。


「どうして俺を呼んだ? 言っておくがイキールとの決闘に、俺は何の関係もないからな」


「寂しいことを言わないでくれよ。吾輩達は共にダンジョンを攻略した同志じゃないか」


「誰が同志だ」


 早々に気絶してたくせに。


「ふむ。どうやら虫の居所が悪いようだね。何かあったのかい?」


「ああ。あったな。お前なんかがメイドを侍らせているっていう事実に打ちのめされたんだよ」


「……はぁ」


 ヒーモはよくわからないといった表情である。


「吾輩は子爵家の嫡男だ。このていどの人数はむしろ少ないくらいだぞ。いや、数の問題じゃないだろう。何をそんなに苛立っているんだ?」


「若様。ロートスは嫉妬しているのですじゃ。見ての通り女にもてそうにない風体をしております故」


 アカネが何やら不必要なことを言い出した。


「黙れクソガキ。お前には聞いていない。ロートスがそんなことくらいで腹を立てる器でないことくらい、吾輩にもわかる。彼は吾輩を守ってくれた実力ある人格者じゃないか」


 ああ。うーん。実際そのクソガキがお前を守ったんだけどな。


 でもなんか複雑な気分だ。

 知らない間にヒーモの好感度が上がってないかこれ。


 俺はわざとらしく咳払いをする。


「俺のことはいい。それで、用件は?」


「うむ。キミの言う通り明日のことなんだが……」


 ヒーモはグラスをローテーブルに置き、神妙な顔を作った。


「ガウマンとの決闘、代理人を立てたいと考えている」


「代理人?」


「ああ。貴族同士の決闘は代理人を立てることが許されているからね。ダーメンズ家も代々、妻や恋人、妹や娘などを決闘の代理に立ててきたという言い伝えもある」


「クソみたいな家系だな」


「だから明日も代理人を立てるつもりなんだ」


「いったい誰を出すんだよ?」


 俺の質問に、ヒーモがニヤリと笑った。


「キミの従者だよ。ロートス」


 その目線の先にいたのは、他でもないアイリスだった。

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