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聞くしかない

「連れてきたわ」


 教会の中に足を踏み入れた少女が、女性達を見渡して言う。

 そして、俺とオルタンシアに手を向けた。


「……救世神ロートス・アルバレス。聖母オルタンシア」


 久々に聞いた気がするぞ。そのワード。

 俺が唾を呑み込んでいると、女性達は慌ててその場に手と額をつき、平伏した。


「あぁ……神様……」


「本当に、お越しくださったの……?」


「我らが救世神と、聖母様が……っ」


 ジェルド族の女性達は、涙ぐんだ声を出し、これでもかというほどに感動している。

 その中の一人、五歳ほどの女の子が、頭を上げて俺を見上げた。


「このおにいちゃんが、きゅーせーしんさまなの?」


「こ、こらッ! なんていう不敬を――」


 母親らしき女性が、必死に女の子の頭を押さえつける。ほとんど床に叩きつけるような勢いだった。

 どういう状況か、まったく理解できん。

 オルタンシアの震える手から不安な心情が伝わってくるぜ。


「おい」


 俺は壁に背を預けて一息ついている少女に、視線を移した。


「説明はまだか」


 じろりと俺を見る少女。さっきからなんなんだ。敵意はないが、反抗心みたいなものを感じるぞ。


「さぁみんな。待ち人はちゃんとやって来たでしょう? もう遅いし、家に帰って。これからこの教会は、救世神と聖母のものだから」


 少女がそう言うも、女性達は動こうとしない。平伏したままだ。

 溜息まじりの視線が俺に向けられる。少女は言外に、俺になんとかしろと言っているらしい。

 しゃあねぇ。


「みんな、面をあげてくれ」


 俺が言うと、女性達はおずおずと顔を上げる。


「今はこの子の言う通りに」


 俺が教会の出口を指し示すと、女性達は機敏な動きで立ち上がる。


「我らジェルドの救世神様と、慈愛深き聖母様に、永遠の信仰と忠誠を誓います」


 全員がもれなく両手を組み、深々と腰を折る。

 なんとなく、居心地の悪い感じがするぜ、これはよ。


 オルタンシアなんか、ひきつった表情のまま固まってしまっている。そりゃそうだ。急にこんなことになれば、誰だってそうなる。

 オルタンシアのことを聖母だと知っている者は、ジェルド族においてもそれほど多くないのでは、という話だった。それなのに、この辺境の村人達がそれを知っているのは何故だろう。俺が救世神だというのもそうだ。

 あれはアルドリーゼが持つ石板に書かれていたもの。

 ジェルド族ならみんな知っているというものでもないはずだ。誰かが意図的に広めたのか? 一体何の為に?


 いや、考えても仕方ない。

 今はこのふてぶてしい少女に、話を聞くしかない。

 この村で、あるいはジェルド族内で、何が起こっているのか。


 聞くしかない。

 ああそうだ。

 本当に、聞くしかないんだ。

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