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ただいまドーパ民国

 ずっと気にかかっていることがある。


 エンディオーネが司っていた生命の光は、エレノアへと移った。

 マーテリアが司っていた万象の光は、魔王アンヘル・カイドに宿った。


 じゃあ、ファルトゥールが司っていた法理の光は、誰に宿ったのか。


 エンディオーネとマーテリアが人間に神性を託したとなれば、ファルトゥールもそうしているはず。そうじゃないと、対抗できないから。

 これまでの情報から推し量るならば、王国にいる誰かがファルトゥールの神性を授かっているんじゃないだろうか。そしてそれは女性なんだと思う。

 女神の力は、女と相性がいい。これは俺の私見だけどな。


 神性を得るに相応しい者って誰なんだろうか。

 エレノアは神スキルを持つ転生者だし、アンヘル・カイドは純粋な神族、いわゆる古代人の末裔だ。王国に、そこまでの特別な人間は存在するのだろうか。

 そして、食い止めたとは言えプロジェクト・サラのことも気がかりだ。

 いや、俺が知らないだけでたくさんいるのだろう。

 だから考えても仕方ない。油断なく、用心をしておくしかないのだ。


「ローくん。そろそろ休憩してもいいかい?」


 グランオーリスへの道中。まもなく日暮れの頃。

 ドーパ民国のヨワイの街付近で、メイがそんなことを言い出した。


「ヨワイの街に寄るのか? それは……気まずいんじゃないのか?」


「でも、自分のやったことから逃げたくないんだ」


 真っすぐな瞳は真摯の光を湛えている。


「それにさ。そろそろアッチの方も溜まってきて、ムラムラして仕方ないんだ。あの街にはあたしのセフレがたくさんいるから、ちょうどいいと思ってね」


「……おっけぃ」


 なんとも言いがたいっすね。

 そんなわけで、俺達はヨワイの街に寄ることになった。

 時間は惜しいが、メイには休息が必要だ。朝までしっかり休んで、グランオーリスに急がないとな。


「じゃああたしはセフレに会ってくるね。お日様が上るくらいに、大通りで落ち合うってことでいいかい?」


「わかった。張り切りすぎて倒れたりしないでくれよな」


「善処するよ」


 街に入るや否や、メイはそわそわしながら去っていった。よほど性欲が溜まっているんだろう。

 さて。

 俺には休息なんか要らない。ほぼ無尽蔵のスタミナを備えているからだ。

 朝までの空いた時間。やることを探さないとな。


 俺はまず宿をとり、馬屋にフォルティスを繋ぐ。それから、メイが働いていたあの店に向かうことにした。

 通りは多くの人で賑わっていたが、例の店には閑古鳥が鳴いている様子だった。


「おお。ロートス殿」


 入店した俺を見て声をかけてきたのは、まさかのフランクリンだった。


「戻ってこられたのですか」


「ああ。色々あってな」


 俺はフランクリンの向かいの席に腰を下ろし、店内を見渡した。


「寂しくなったもんだな。ちょっと前まで、大繁盛だったのによ」


「ええ」


 カウンターの裏でグラスを拭く老年の店主が、やけに物寂しく見えた。


「暴動が収まったのは幸いです。しかし、メイ嬢がいなくなってからというもの、この店に限らず、街の活気がひどく落ち込んでしまいました」


「メイさん一人がいなくなっただけでか」


「彼女の……というより『魅了のまなざし』の影響力が、それほどまでに大きかったと言うことです」


「特定危険スキルってのも、納得だな」


「はい」


 静かな店内に、暗い沈黙が訪れる。

 そんな雰囲気の中、店に入ってくる人物があった。

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