交錯する理想
「さて、私達のバックボーンはお話ししました。ここからが本題です」
ティエスが居住まいを正して俺に正対する。
「本題?」
「単刀直入に申し上げましょう。ロートス・アルバレスさん、親コルト派に入りませんか」
「やだよ」
露骨に嫌な顔をした俺に、ティエスは苦笑する。
「予想通りの反応ですね。無理もありません。あなたはエルゲンバッハ大尉を通してしか我々を見ていませんから。ですが考えてもみてください。我々はお互いの目標達成を助け合う組織です。親コルト派に加入すれば、あなたの目標は皆の目標になる。味方は一人でも多い方がいいでしょう?」
「いやいや。そうなったら、俺があんたのふざけた野望を手伝わなくちゃならなくなるじゃねぇか」
「おや、これは意外ですね。あなたなら賛同してくださると思っていましたが」
「俺をなんだと思ってんだ。世界中のおっさんを美少女にするなんて真似に力を貸したくねぇだろ普通に考えて」
「そこをなんとかお願いします」
ティエスは深々と頭を下げ、土下座をした。
そんなことされても無理なもんは無理だろ。
「正直、俺は自分の目的を達するのにあんたらの力が必要だとは思えない。俺にはもう頼れる仲間がいる。不純な動機で戦ってるあんたらとは違う、本当の仲間がな」
「助け合いの精神を不純だとは思いませんが……まぁ仕方ありません」
ティエスは頭を上げると、がっくりと肩を落とす。
「真剣な思いが伝わらないというのは、ひどく辛いものですね」
すまんな。
だが人にはそれぞれの考えがある。真剣だからと言って、なんでもかんでも賛同できるわけじゃない。
ジョッシュがかかっと笑い声をあげた。
「そう気を落とすなティエスよ。わしらはわしらで世界を変えるために戦えばよいのじゃ」
「そうですね」
みんな自分の理想を掲げて戦っているんだな。
まぁ、その理想の貴賤というのは、しっかりと見定めていかなけりゃならんが。
間違っても、世界中のおっさんを美少女にするという理想は褒められたもんじゃない。嫌いじゃないけどな。
あ、そういえば
「ジョッシュ。ひとつ聞きたいことがある」
「なんじゃ」
俺はこの国に来てから気になっていたことを尋ねることにした。
「アカネっていう女を知ってるか? 王国の、ダーメンズ子爵家に仕えていた女なんだけど。服とか顔立ちとか、クィンスィンの特徴があるなと思ってさ。もしかしたら繋がりがあるんじゃないかって思ってるんだけど」
「アカネとな……」
ジョッシュは小さな顎を押さえる。




