ザ・モンスター
「申し上げた通り、我々親コルト派はお互いに助け合う組織です。それぞれが掲げる目的のために、皆が一丸となって力を合わせる。そういう理念のもとに活動しているのですよ」
「何が言いてぇ」
「わかりませんか。メンバーの目標は、そのまま親コルト派の目的なのです。エルゲンバッハ大尉が王国に覇権をもたらすのと同時に、彼もまた我々ひとりひとりの目的を叶えようと尽力してくれているのです」
「わかりにくいんだよ。説明が」
「一つ例を挙げましょう。ご存じの通りメイは『魅了のまなざし』というスキルを用いて、ドーパ民国内で暴動を発生させました。そのことだけを見ると、ただエルゲンバッハ大尉の手助けをしただけに思えますが、実情は違います」
「なに?」
俺はメイを一瞥する。彼女は瞼を落としてわずかに俯いていた。
「メイのスキルは強力ではありますが、完全無欠というわけではありません。神スキルにはえてして反動、副作用のようなものがあります。『魅了のまなざし』の欠点はいくつかありますが、その最たる二つが、一度使った相手には二度と通用しないこと。そして使えば使うほど加速度的に性欲が増大していくことです」
「性欲が、増大?」
俺は思わずメイを見た。
今度は、唇を引き結んで視線を落とすメイの姿があった。
「そうです。ドーパ民国が執った政策の弊害ですね。特定危険スキルとして本人にまで秘匿した故に、何かの拍子に自身のスキルを知ったとしても、その反動や副作用までは分からなかった」
なんてこった。完全に裏目に出てるじゃねぇか。
「年頃になれば、誰しも異性を意識するものです。モテたいと望むのはごく自然なことでしょう。結果、若気の至りでスキルを乱用したメイは、自分ではどうすることもできないくらいの性欲おばけになってしまった。私とて、彼女がこうして普通に振る舞っていられるのが信じられないのですよ。強靭な精神力と、頻繁に性欲を発散しているおかげです」
「頻繁に発散? 一体どういう風に……いや、待てそうじゃない。ええっと、だから……それがなんで暴動に繋がるんだよ。もし自分の性欲をなんとかしたくて親コルト派に入ったってんなら、これ以上スキルを使わないようにするのが一番じゃないのかよ」
「ところがそうではないのです。すでにメイの性欲は肉体の限界に達しています。これ以上はいくらスキルを使っても性欲は増大しません。ですから、エルゲンバッハ大尉の諜報活動を通じて、秘密裏に魅了をかけて回ることにしたのです。そうすれば、大尉の目的を助けるとともに、民国軍に悟られることなく国内の男性を魅了することができる」
俺は言葉を失った。
やべーだろ。普通に考えて。
それが率直な感想だった。




