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変態揃い踏み

 光が収まった後。

 広間には、大の字で倒れるムサシと折れた刀。

 そして、勝者の佇まいを見せる俺の姿があった。


「強かった。わりと」


 その呟きに応えるように、レオンティーナが傍に現れる。


「主様。見事な戦いでございました」


「ああ。あと三歩くらい間違えてたら、俺が負けてたかもな」


「ご謙遜を」


 レオンティーナは気を失ったムサシのもとに近づいていく。


「魅了の浄化を行います」


「どれくらいかかる?」


「数分もあれば」


「わかった」


 俺は剣を納め、両手を払う。


「俺はメイさんを追う。ムサシのことは任せたぞ」


「御意。お任せください」


 一時はどうなることかと思ったが、大丈夫そうだな。

 早いところメイさんを捕まえて、親コルト派の連中を止めないと。女神をどうにかする前に、戦争で世界が終わっちまうぜ。


「うう……」


 俺が広間を去ろうとした時、ムサシの呻きが聞こえてきた。


「ロー……トス、殿……」


 絞り出すような擦れた声。


「拙者……拙者は……」


 こんなすぐに目を覚ましたのはすごいが、流石に動ける状態ではないようだ。

 レオンティーナが、両手から白い輝きを放ち、ムサシの魅了を浄化していく。


「まこと……拙者は、童貞では……ござらん」


 俺は振り返らない。

 この期に及んで何を言っているんだ。


「ムサシ。それを決めるのはあんたじゃない」


 歩みを進め、広間を去っていく。 


「勝負に勝った、この俺だ」


 ムサシの苦しげな声が背中に届く。

 まだ何か言いたいようだが、聞くに及ばない。いくら否定しようとも、恥の上塗りになるだけだ。

 ムサシの名誉の為にも、俺は否定の言葉を聞かないことにした。


 あいつは童貞だ。誰が何と言おうと。

 俺は、ムサシが童貞であることを信じる。


 それはともかく。

 俺はイーグレット・キャッスルを上っていく。

 狭く急な階段をいくつか上った先、辿り着いたのは大天守の最上階であった。

 だいたい三十畳ほどだろうか。

 畳の敷かれた間は、四方の窓が開き、開放的な空間になっている。


 俺を迎えたのは、三人の人物だった。

 間の中央に座る幼げな少女。十二、三歳くらいのおかっぱ頭の少女である。

 彼女の両斜め前に、距離を空けて向かい合って座る男女二人。

 見知らぬ男と、メイだった。


「おう。ようやく参ったか。待ちくたびれたぞ。乱波者」


 中央に座る少女が、片膝を立ててお猪口の酒を呷る。


「キミは……?」


「わしか」


 大股を開いてふんどし丸見えの少女は、紅潮した頬でメイを見やる。

 それに促され、メイが口を開いた。


「こちらはイーグレット・キャッスルの城主。ジョッシュ殿」


 なんだって。

 ムサシが言っていたジョッシュって、こんな小さい女の子だったのかよ。同じ釜の飯を食ったって言っていたから、おっさんだとばかり思っていた。


「そして」


 メイが向かいに座る男に目を向ける。


「こちらが親コルト派の統領。ティエス・フェッティ」


「ども」


 男は無表情で俺に会釈をした。

 小太りの、なんだか覇気のない中年男だ。顔は脂ぎっているし、服装も安っぽいシンプルな感じだ。こんな奴が親コルト派のトップなのか。


「お前が、親コルト派の」


 敵意を露わにした俺を、ジョッシュが手で制す。


「まぁ待て。言いたいことは山ほどもあるであろうが、まずは頭を冷やし座すがよい」


 いいながら、正面に座布団を投げてよこす。


「なに?」


「どうじゃ? 美味い酒もある」


「どういうつもりだ」


「座らんと落ち着いて話もできんじゃろうが。ほれ、早う座らんか。〈尊き者〉よ」


 俺をその二つ名で呼ぶってことは、世界の裏事情を知ってるってことか。

 仕方ない。

 ジョッシュが見せる丸出しのふんどしに免じて、俺はしぶしぶ座布団の上に腰を下ろした。

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