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実は驚いてない

「具体的には?」


 レオンティーナが鋭く尋ねる。


「メイ嬢に危害を加えることなく、スキルを自覚させることもなく、魅了を封じる方策を講じるのです。皆さんの知恵を、お貸しください」


 フランクリンがいい声で促した後、しばらくの沈黙が保たれた。

 誰も口を開こうとはしない。

 今、カマセイやレオンティーナの頭の中では「無理じゃね?」的な思考がぐるぐると巡っていることだろう。もしかしたらフランクリンもそうかもしれない。 

 だからといって何も喋らなければ光明の先端すら見つけられないんだなあ。俺はとにかく、何か言おうと努める。


「あー……こういうのはどうだ?」


「どういうのですか?」


「あれだ。眼鏡をかけてもらうとか」


 まなざしと言うくらいだから、目を直接見ないようにすれば抑制できるんじゃないか。

 俺の提案に、フランクリンは首を横に振った。


「あまり効果はないでしょう」


「そうか?」


「過去の記録に、盲目の人物でも『魅了のまなざし』を行使した例があります。まなざしと言っても物の例えであって、本質を示したスキル名ではないのでしょう」


「ああ、なーほーね」


 そういう理屈なら、メイが対象を認識した時点でスキル発動可能ということになる。仮に目を塞いだり潰したりしても、意味がないってか。すごい強力なスキルだな。


「八方塞がりだと思うぜ、俺は」


 カマセイが頬杖をついて言う。


「どうせなら、軍に取り込めばどうだ? 『魅了のまなざし』があれば、敵国に紛れ込ませでもすりゃ大混乱を狙えるだろ」


「バカな」


 フランクリンが声を大きくした。


「そのようなことは許容できかねる」


「なんでだ? 帝国騎士の俺が言うのもなんだが、うまくコントロールすれば民国にとって大きな利益になるぜ」


「それはそうですが……」


 カマセイの核心を突いた意見に、フランクリンは言葉を濁している。

 なんか意外だな。


「先程も申し上げた通り、彼女が恣意的な行為に走った時のリスクが大きすぎます」


「その時は殺せばいいじゃねーか」


「いけません。我がドーパ民国は、国民の安寧と幸福を第一に考えています。それが国策の根底にあるのです」


「だが、軍や政府側の人間には自分を犠牲にする覚悟がいる。お前みたいにな。そっち側にメイを引き込めって言ってんだ、俺は」


「しかし、それでは彼女の意思をないがしろにすることになるかもしれません」


「おいおい……とんだ甘ちゃんだな。強い力には、相応の責任が伴うもんだろ。特定危険スキルなんてモンを身に受けちまった時点で、あの女に平凡な人生なんて許されちゃいねーんだよ」


 俺は口を挟まない。

 カマセイの言葉には一理がある。

 スキルが運命の具現だとするのなら、波乱に満ちた人生の道がメイの宿命であることは間違いない。これまでだましだましやってきたが、もう誤魔化しきれないところまできちまっているのかもしれないな。


 レオンティーナが俺を一瞥する。発言をしてもいいか、目線で尋ねているのだ。

 首肯で許可を示すと、レオンティーナは凛々しい声で言葉を紡いだ。


「参謀次官補佐。あなたは何故、あのメイという女性をそこまで庇護しようとするのです? 失礼ですが、あなたのことは調べてあります。あなたを知る者からすれば、今の言動はすこし違和感があると思うでしょう」


 ふむ。どういうことだろう。


「……たしかに、小官は冷酷無比な軍人として通っております。これは私情を挟むことになる故に申し上げていませんでしたが……実はメイ嬢は、小官の腹違いの妹なのです」


 な、なんだってー。

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