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三国ケミストリー

「それなら俺じゃなくて、メイさんに直接事情を話してみたらどうだ? あなたのスキルは危ないから、ちゃんとコントロールして使わないようにして下さいってさ」


「そのように主張する者達も、軍には一定数存在しています。ですがやはり自覚させるべきではないとの意見が大多数を占めています。もし仮に、彼女が恣意のままにスキルを悪用すれば、我々には為す術がありません。下手をすれば、国家存亡の危機にもなり得ます」


 たしかに。

 メイはいい人そうだが、大きな力を手に入れた後でもその精神性を維持できるかどうかは保証できない。人間の心ほど、脆くて移ろいやすいものはない。


「ですから我々は、あなたに接触を図った」


「俺には魅了が効かなかったから」


「その通り」


 フランクリンはまたもや軍帽をかぶりなおす。どうやらそういう癖らしい。


「彼女がスキルを得てからの約十年。無効化する者は一人としていませんでした。ロートス殿は、我々が待ち望んでいた救世主かもしれないのです」


「大袈裟だ」


「とんでもありません。彼女のスキルは、それほどに危惧すべきものですから」


 なるほどねぇ。

 この国の軍部は、俺にメイをなんとかしてほしいってことなんだろう。


 なんつーか。やっぱり面倒事に巻き込まれたな。

 俺の人生、プラン通りに行くことがない。

 でもそれでいいさ。重要なのは、最後に勝つか負けるかだからな。


 やがて、馬車が停止する。


「続きは中でお話しましょう。ご案内します」


 馬車を降りた俺達は、基地の内部へと向かった。

 その基地は石造りの頑丈そうな建物だった。小さな城と表現しても差し支えないくらいだ。


「こちらです。どうぞ」


 通されたのは客室だった。広い部屋に大きなテーブルが一つ。それをいくつかの椅子が囲んでいた。


「あれ?」


 客室には先客がいた。

 片腕を失った男。帝国の騎士団長カマセイ・ヌー。


「……おう」


 椅子に座っていたカマセイは、ばつが悪そうに視線を逸らしてそれだけを絞り出した。


「なんであんたがここに」


「小官がお呼びしました。彼にもこの件に協力して頂きます故」


 役に立つのかよ。


 ともあれ、俺達は揃ってテーブルを囲むことになった。

 異国の旅人である俺。

 軍部の参謀フランクリン。

 帝国騎士団長カマセイ。

 一体どういう組み合わせだ、これは。


「自己紹介は必要ありませんね。貴重なお時間を割いて頂いております故、早速本題に入ります」


 フランクリンが、キレのある声で話を切り出した。


「議題は一つです。第一種特定危険スキルを持つメイ嬢を――生かすか、殺すか」

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